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【SS】新人騎士歓迎ツアー
日時: 2007/01/26 00:18
名前: みなお 

メイン掲示板にて参加者の皆さまより歓迎のお言葉を募集してできました、新人騎士の皆さま歓迎SSです。
分割投稿いたします。

Page: 1 |

Re: 【SS】新人騎士歓迎ツアー ( No.1 )
日時: 2007/01/26 00:20
名前: みなお 

 その日、世界忍者国は文字どおり戦争だった。
 今般の戦乱が始まってから、初めての大規模な戦闘。あらかじめ国内では物資や体制の準備がなされてきたが、それでも、本格的な戦時動員の報に国内は揺れた。
 藩王とその直属である赤の騎士団が出陣するとあって、急遽内外から騎士の公募が行われていた。余談であるがこの募集に使われた「猫の手求む!」というフレーズは、この国に限らずにゃんにゃん共和国の全土において、「忙しい」ではなく「志あらば来たれ」という意味を持つ。
 それに応えたのは、結城杏、扇りんく、怪獣、春日彼方、ブギー、檮原朱樹、風巻隆景、飛乃の8名である。これは当時の騎士団の6割にあたる人数であり、その勇敢な志と大規模な戦力増に、国民は皆歓喜した。の、だが。

「なんだか忙しそうですねえ」「う〜ん…」
 後方支援としてマルチフィクサー(医師+整備士)に任ぜられた扇りんく、春日彼方、檮原朱樹は、眼前で展開される出陣準備の大騒動を眺めつつ、こそこそと言葉を交わし合う。
 即日戦闘と知っての騎士志願である。覚悟は充分にできていたが、支度に慌ただしい周囲の状況に、やや気圧され気味。まあとりあえず遅れずについていければいいのかと考えつつ、各自装備の点検などを済ませていた。
 そこへ、ひとりの技手が足を止める。
「あ〜新しく入ってきてくれた人ですね〜。こんにちは〜こんにちは〜(*^^*)」
 3人は、先程簡単に受けた紹介を、慌てて頭に浮かべる。同じマルチフィクサー部隊のカヲリ…だったはず。多分。
 カヲリは運搬の途中だったとみえ、両手にこれでもかと荷物を抱えながらそれでも、やわらかい笑顔で語りかける。ただし、驚くほどの早口で。
「いきなり戦闘で慌しくってごめんなさい〜。帰ってきたら、皆で歓迎会とかしましょうね〜。
 …途中で行き倒れなければだけど。なんてね〜あははは。ではでは〜」
 ありがとうございます…と皆が言いかけた時には既に、カヲリの姿は100mほど先にあった。
 呆然と見送る3人の肩に新たに、ぽん、と手が置かれる。
「手が空いているようだね」「よーし、お手伝い確保っ」「…蜘蛛は嫌いじゃないね?」
 どこからともなく現れた白金優士、榊朱利、可銀の3人。返事をする間もなく、首の後ろをひょい、と捕まれる。
 そうして彼らもまた、喧噪の中へと巻き込まれていった。

 同じ頃、結城杏、怪獣、ブギー、風巻隆景、飛乃の5人は猫忍(猫士+忍者)部隊に配属され、こちらも出陣前の慌ただしさの中、合議に参加していた。
「合い言葉重要ですよ、よく覚えておいてください。“しっぽ”と言ったら“アンテナ”。いいですか?」
「あの技恥ずかしいって。合い言葉にまでしなくても…“しっかり”と“うっかり”でいいんじゃない」
「その方が他国に聞かれたら恥ずかしいでしょう」
「あの、“ラブレターからミサイルまで、貴方の心を運びます”と、“黒猫忍者の特配便”では…」
「「長いよ」」
 氷野凍矢、月代由利、久堂尋軌の掛け合いに、目を丸くする5人。結局、どれを覚えればいいのだろうか…全部?
「それと作戦中はコードネームを使います。通常は名前ですが、何か希望のある方はいますか」
「いえ」「特に」
 口々に答える者を尻目に、飛乃はひとり胸を張って言った。
「姫、と呼んでください」
「…」
 集中する視線と、それに続く沈黙。
「…い、いえ、呼ばなくてもいいです。ではリトル・女王様と…」
「「長いって」」
 このツッコミに、猫忍たちの心はひとつになったという。

 かくて類い希なるどたばたの一夜を越えて、にゃんにゃん共和国は根源種族との戦いに赴き、見事勝利する。
 無事を喜び合う凱旋帰国の一団の中、勝利の喜びとともに新人騎士たちの胸に去来したのは
「なんていきなり人使いの荒い国なんだ…」
という感慨であったとか。


 そして、数日後。
 藩国の中央に位置する王宮に、新人騎士8人は顔を揃えていた。配属当日はすぐに部隊に合流する必要があったため順延された、赤の騎士団騎士の叙勲を受けるためである。
「こんにちはー」「あ、はじめまして、かな」「どもども」
 実のところこの8人が一堂に会するのはこれが初めてと言っても良い機会である。挨拶に花が咲く。
「ところでアレ…なんでしょうね」
 ホールにそそり立つ、まばゆいばかりの銀色の像を見上げて、扇りんくが呟いた。
「ああ、これはご神体のレプリカだ。中央塔の上にあるだろう、本物が」
 背後からかけられた声に振り向くとそこには、宮廷服を纏った女性がひとり。この間の出撃では見ていない顔だ。官吏だろうか。
「中央塔って…どこのことだろう」
「おい、あの目立つのに気づいてないのか?!」
 ぼんやりと言う春日彼方に、ブギーが驚きの声を上げる。他の面々も、うんうんと肯く。あの像を見ない日はない、と言ってもいいほど、この国の中では目立つ建造物であり、また国の象徴でもあると、既に皆が耳にしている。
「そうか、国内の案内もまだなんだな。では後で…」
 と、俄にホールの向こうの扉から誰かを呼ぶ声が聞こえてきた。宮廷服の女性は慌てたように周囲を見渡すと、ぽん、と手を打つ。
「そうだ、今からこの国を案内してやろう。よし行くぞ、急げ!」
「ええっ」「いや、でも…」
「ほら、早くっ」
 反駁の余地もあらばこそ、走りだす彼女の勢いに押されるように、騎士たちもまた駆けだしていた。

「あれが中央塔だ。この国の情報伝達網、『瞑想通信』を司る場所だな。そして上にあるのが、我らがご神体」
 突然の全力疾走に、ぜいぜいと息を切らす騎士たちを尻目に、誇らしげに彼女は指さす。その向こうには、先程ホームで見たのと同じ銀の像が、晴天に映えて輝いていた。
「はあ…しかしなんでこれが、ご神体なんですか」
「さあな。正確にはご神体の本体は、あの塔の地下に安置されている。いずれにせよ、我が国のシンボルという訳だ」
 王宮からほど近い丘の上からは、藩国全体の様子がよく伺えた。森の中にそびえ立ついくつもの通信塔、そして中央塔の向こうには、ひらけた土地が広がっている。
「わあっ、畑! とうもろこし畑だ。いい景色…」
「…おいしそうだなぁ」
 結城杏がうっとりと言うと、檮原朱樹もその風景に見入る。ファーマーと健啖家。方向性は違えども、興味の対象はひとつ、ということらしい。
 目を輝かせて眼下を眺める2人に、つられて扇りんくが笑みを浮かべる。しかし数秒の後、はっと我に返るとコホンと咳払いをひとつ。いけないいけない、これだからクールビューティーが遠ざかるんだ。
「で、つい勢いに任せてここまで来ちゃったけど…戻らないとマズくないかな。叙勲を受けに行ったんだし、私たち」
「ああ、そういえば」
 ぽんと手を打つ春日彼方。
「いや、叙勲式は少し遅れるらしいぞ」
「そうなんですか?」
「うん、まあつまり、案内の猶予ぐらいはあるってことだ。安心していい」
 宮廷服の女性は上機嫌そうに言う。
「ところで、貴女は。王宮勤めの方ですか?」
「いや、この方は、藩…」
 言いかけた飛乃の口を素早く手で塞ぎ、女性はにこやかに答える。
「私も皆と同じく騎士の…えっと、ユーラという者だ。よろしく」
「よろしくお願いします」
 なんとはなしに頭を下げる面々。先輩だからという理由ももちろんだが、口で表せない何か…雰囲気、というようなものが、彼女への礼をはらわせていた。
「さて、では次だな。この際だ、主要な組織を紹介しておこう」
Re: 【SS】新人騎士歓迎ツアー ( No.2 )
日時: 2007/01/26 00:21
名前: みなお 

 森を抜けると眼前に現れたのは、2つの巨大な建物。
「これが中央整備工場。マルチフィクサーや技手の根城とでも言うかな。将来的にはI=Dの開発もここで行うことになるだろう。で、向こうが中央病院だ。この2つは開発局の管轄になっている」
「ユーラさん、ひとつ質問が」
「なんだ?」
「案内はありがたいんですけど…なんでいちいち移動が全力疾走なんでしょう」
 またもやランニングを強いられて、さすがの騎士たちも息が上がり気味だ。その気持ちを代表するように、風巻隆景が問いかけた。
「それはもちろん追っ手をまく…時のための、鍛錬だよ。うん、これも修行の一環だな、ははは」
 半信半疑な面持ちでユーラを眺める皆。中でも飛乃は、あからさまに疑いの表情を浮かべている。
 しかし当の風巻隆景は、心底感銘を受けたというように何度も肯いて、ユーラの手を握った。
「ありがとうございます! これも騎士としての訓練のうちなんですね。そうか、よ〜し修行だ修行!」
「よしよし、その調子。…ただし」
 君は拙者拙者詐欺とかに気をつけた方が良いよ、と小声で呟いたユーラの声は、少なくとも本人には届いていない。
 工場をのぞき込むと、先日の戦でマルチフィクサー部隊にいた者たちの姿が見えた。中央病院長の緋乃江戌人と、カヲリが目ざとく一行を見つけてやってきた。
「おや、新しくいらした方々ですね。とはいえ、私もあまり変わりませんが。ああ、申し遅れました、私、緋乃江戌人と申します。何か困ったことや分からないことがおありでしたら、私でよければ、お力添えさせてくださいね」
 ていねいな言葉と気遣いに、騎士たちに安堵の表情が浮かぶ。
「あ〜こないだの方々ですね〜。猫忍部隊だった方ははじめまして、カヲリです。今日はお揃いで、見学ですか?」
「ええ、こちらの方に案内を…」
 言いかけて春日彼方が振り向くと、そこにいたはずのユーラの姿がない。あれ?と首を傾げる。
「ああ、案内の方がいるんですね。でしたら安心です。この通り森の中にある施設が多いし、樹上を伝う道は入り組んでるので、迷子になりやすいですからね」
 近いうちにきっと、歓迎会しましょうね〜というカヲリの声に送られて一行が外に出ると、どこからからともなくユーラが現れた。
「中に蜘蛛と猫はいたか?」
「いえ、見かけませんでしたけど」
「そうか、また工房に籠もってるんだな。工場長の可銀はよく猫士と蜘蛛を連れて歩いてるから、目立つはずだ。どっかで見かけたら挨拶しておいてくれ」
 は〜い、と答えつつ微妙な表情を浮かべる女性陣。猫はともかく…蜘蛛、かあ。

 次なる目的地、通称「黒猫忍者の特配便本部」に向かう途上、ひとりの騎士装束の女性が歩いてくるのが見えた。
「お、ちょうどいい。お〜い、怜夜団長!」
 きょろきょろと何かを探している風だった女性は、ユーラの姿を認めると近づいてきた。
「この間の戦では、星見司の部隊にいたから会ってないだろう。紹介する、新人騎士たちだ」
「騎士団長の怜夜です。宜しくお願いします」
「よよよろしく、お願いしますっ!」
 一斉に緊張する一行。なにしろ国の要の騎士団を統べる団長だ。いきおい、表情も硬くなる。
 その様子に怜夜は苦笑すると、やさしく続けた。
「あ、あんまりかしこまらないでね。騎士団っていっても、新人さんは皆ここに配属されるの。ここに慣れて、国の基本方針と騎士の心得を学んだらすぐに自分に見合った部署に配置されるから。そうですよね、藩…」
「ところで何を探してたんだ、怜夜団長?」
 言葉尻をかき消すようにユーラが問う。はっとしたように怜夜はまた辺りを見回した。
「白金優士副団長を捜してるんですけど」
「今日は見かけないな」
「あぁっ! 副団長がいないなんてそんな?!」
 がっくりとくずおれる怜夜。
「今日は国境に行くのに、これじゃたどり着けない帰れないーー!!」
 その悲痛な叫びを背後に、こそこそと立ち去ろうとするユーラ。風巻隆景が何を思いついてか、嬉しそうにこっそりと声を掛ける。(今度は忍び足の特訓ですね!)
(…そういうことだ。よし皆、走るぞっ)
 駆け出しつつも後ろを気にして、結城杏が問いかけた。
「いいんですか、団長、あのままで…」
「ああ、いつものことだから。でもああ見えてけっこう…」
 頼りになるんだぞ、と照れたように呟く声に、騎士たちはその信頼を見た気がした。

「ここが特配便本部。通商局の管轄で、テーベーショッピングの通販なんかも担当しているんで、けっこう忙しいらしい。留守かな」
 あたりに人の姿は見えない。隣接する厩舎からは、輸送に使用する鳥と翼竜の声が響いている。
「仕方ない、じゃあ次だな。と、その前に観光地に寄るか。うまい饅頭の店があるんだ」
「饅頭!」
 その一言に、檮原朱樹の瞳がきらーん輝いた。さっきから走り通しで、彼女ならずとも空腹を覚えていた頃だった。
 足どりも軽くその場を離れる一行とすれ違うように、頭上に停止させた巨大な鳥から久堂尋軌が降りたつ。
「お客さんだったのかな…あれ?」
 既にずいぶん遠くなった一行の姿に、見覚えを感じて尋軌は首をひねった。
「あの後ろ姿は…まさか」

 観光地はいつも通りのにぎわいを見せていた。
「わ、これは…」「おいしい!」「うんうん」
 ユーラ推薦の葉雨万堂の世界忍者饅頭を並んで手に入れ、ロイ像の足元でティータイム。
「この像って、えらい数ありますよね、もしかして」
 饅頭を頬張りつつ、そびえ立つ像を見上げてブギーが言う。この道行きの中でも既に、あちこちで見かけていた。
「全部で108箇所あるそうだ。スタンプラリーもあるから、ヒマを見て探してみるのも面白いぞ」
「108?!」
「だが私も全部は確認していない。あと1つ見つければ、記念のミニロイ像が手に入るものをっ…!」
 饅頭を握りつぶさんばかりの勢いで悔しそうに言うユーラ。相当の思い入れがあるらしい。
「あれ、あの行列はなんだろ」
 並ぶ店先のひとつに、ひときわ長い行列ができている。その奥からはなにやらかわいらしい歌声が流れてくる。
「ああ、『しっぽアンテナ』のCD発売キャンペーンだろう。ちなみに歌ってる彼女も騎士団の一員だ。挨拶してくるといい」
 ユーラに促され、まだ両手に饅頭を持ったままの檮原朱樹をひきずるようにして列に並ぶ一行。
 買い求めるひとりひとりに愛想良く挨拶をしつつ、時にはサインや握手に応じていた月代由利は、猫忍部隊で見かけた顔を見つけるとぱっと顔を輝かせた。
「はーい、広報担当の月代です。よろしくねー^^v」
 可愛い声とともにきゅっと手を握られて、思わず顔を赤らめる男性陣。
「で、だ。何かネタがあったらよろしくね?ちょーよろしくね?」
 超真顔で詰め寄られるが、その声がまた可愛い。ぽやんとした顔の面々に苦笑する女性陣。果たしてちゃんと頭が機能しているか、あやしいものだ。
「済んだか? じゃああとは…放送局かな」

 国営放送局は、通信塔の中に設置されていた。国の放送を一手に司る施設、いつもなら人の行き来が絶えないはずなのだが。
「妙だな…誰もいない」
 きょろきょろと周囲を見回し、忍び足で放送室に踏み込むユーラ。
「ま、好都合か。ここは広報局の管轄だ。文族と技族は先の工場のほか、ここでも働くことになるな」
 室内のテーベーには、確認用にリアルタイムで放送が流れていた。今の時間は収録済みのものを放映しているらしく、放送は滞りなく続いている。しかし。
「こんなに誰もいないもんなんですかねぇ」
「いや、月代騎士の応援に何人か派遣されているにしても、おかしい。まさか何かの罠か…はっ」
 突然、ユーラが息を呑む。猫耳がぴしっと立ち上がる気配を騎士たちは見た。
「にゃ〜、『アニメ世界忍者』の時間だ〜!」
 黄色い声を上げてテーベーにすがり付き、喜色満面のユーラ。今度はぱたぱた揺れるしっぽが見える気がした。
 その時だった。
 頭上から突如落下した網が、テーベーごとユーラを包み込む。
「にゃ〜?!」
 うって変わって悲壮な声を上げるユーラ。その両腕を網ごしに、どこからともなく現れた2人の男ががっしりと掴む。
 すわ一大事と気色ばむ一行の背後から、のんびりとした、しかしどこか剣呑な声が聞こえた。
「凍矢副局長、鐘音騎士、ご協力ありがとうございます。ああ、新人騎士の皆さんごきげんよう。さて…」
 みはえる摂政は優雅ともいえる笑みを浮かべ、しかし耳にした者がどこか寒さを覚えるような声音で言った。
「ゆっくりと話の続きをさせていただきましょうかね、藩王」
「「…藩王、さま?!」」
 どこに、と周囲を見回す一行と、あーあといった表情を浮かべる飛乃。
 ユーラこと結城由羅藩王は観念したように、うみゃ〜と呻いた。
Re: 【SS】新人騎士歓迎ツアー ( No.3 )
日時: 2007/01/26 00:22
名前: みなお 

「びっくりしたでしょう。あの脱走癖さえなければ、ホントに素晴らしい人なんですよねぇ、藩王も」
 改めて王宮に戻り、ロビーに通された一行は、情報局の面々と挨拶を交わしていた。藩王の部屋の方からは、連綿と続くみはえる摂政のお説教と、時折藩王の弱い反駁の声が漏れ聞こえている。
 情報局の副局長でありもうひとりの摂政でもある氷野凍矢は、未だ驚きを隠せない一行に諭すように語った。
「女王様に騙されないで! あとしっかり摂政の言う事はよく聞くんだよ? じゃないと…」
「よいですか。藩王様の様に開けて三日経った、野菜ジュースを飲んではいけませんよ。あの方は特別なのです。でないと私みたいに…」
 川流鐘音も重ねるように言葉を継ぐ。しかし言い終わる前に、久堂尋軌が藩王の部屋から顔を出して2人を招いた。入室する2人と入れかわりに、愛想良く近づいてくる。
「はいはい、みなさんこんにちは。究極の素人でほとんど同じわかばな久堂尋軌って言います。以後よろしくお願いしますね」
 その時、部屋の方から言いしれぬ悲鳴ともつかぬ声が上がった、ような気がした。先程あいさつをしてくれた2人の声のような気もしたが…定かではなかった。
「えっと…わかばの皆さんが聞きたいこととかあればまとめて上に問い合わせしたりとかするので気軽に声をかけてくださいね」
 取りなすように尋軌が続ける。
「みなさんを歓迎し、そして楽しくこの国を盛り上げていきましょう」
 皆が肯くと、やれやれといった風情でみはえるが部屋から出てくるのが見えた。
「待たせましたね。さて、叙勲を執り行います。よろしいですね?」
「はい…」
 みはえるの手につままれたままの藩王は観念したように言ったが、その瞳が騎士たちにしか見えない角度でこっそりウィンクする。つられて皆もにやっと笑った。
 数時間にわたる、藩王手ずからによる国案内。国の首脳陣にとっては「たまったもんじゃない」ことにしても、楽しかったことに違いはない。そしてなんだか、どこか遠かった王様というものに対して、違う感覚が生まれたように思えた。
 そう、この人もまた「仲間」なのだ、と。

「初めに確認しておきたい事は」
 叙勲を終えてすぐに、みはえるが口を開いた。ひとりひとりの顔を順に見つめながら、問う。
「なんの為に戦争をするのかという事だ。私か? 私は萌えの為にしている。君はどうだ?」
 萌え、と宣言されて一同こけそうになるも、ふと考えこむ。何のためか、と問われれば。
 直前に入隊した騎士として介添えをしていた逢瀬みなおが、励ますように口を挟む。
「それをわかるための戦いでも、いいと思いますよ。ご活躍を、お祈りします」
 騎士章の重みもまた、それを問うているように感じられた。でもそれを身につけた時、閃いた答えが、きっとそれぞれの…。
「よし、今夜は歓迎会だ。盛大にやるぞ!」
 藩王の言葉に皆が歓声を上げる。

 こうして8人の騎士の戦いは、幕を開けた。

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