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【SS】ジェントルラット亡命前夜
日時: 2007/01/30 11:37
名前: 鐘音 

取り急ぎ書きました。
確か、今日(30日)が締め切りでしたよね。
シリアスに徹してみました。
全員を出せなかったのが心残りです。
添削などは自由にやっちゃって下さい。
加筆も超歓迎します。
パスワードは1111です。

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Re: 【SS】ジェントルラット亡命前夜 ( No.1 )
日時: 2007/01/30 11:38
名前: 鐘音 

ジェントルラット亡命前夜

いつもは誰かが走り回り、騒々しい王宮はいやに静かだった。
結城由羅藩王を探して、走り回るみはえる摂政の声も無く重々しい雰囲気だった。
そう、この日、にゃんにゃん共和国を震撼させる重大な知らせが、我が国にも届いたのだ。
赤の騎士団はすべて、王宮の会議室へと呼び集められ、その重大な知らせを聞かされた。

「ジェントルラット藩国は帝國より粛清される。そして、かの藩国の王は共和国への亡命を決行する。」

悪戯を考えてはにやにやし、ばれて怒られてはえぐえぐする。
しかし、笑顔の絶えない藩王が、固く貫くかの様な視線で我々に告げた。

「仔細はまだ分からぬ。亡命が成功するかも、受け入れ先がどの様になるかも。」

一拍を置き、騎士全員に言葉が届いているか見回し確認すると、言葉を続ける。

「だが、我が藩は亡命に対し、亡命者が望むなら受け入れるものとする。」

藩王は、重く芯に残るような決意と共に断言した。
その瞳の奥には、静かに燃える怒りがあった。
私は息を潜め、藩王の胸中を考え、思った。
この方の考えは幼い。
政治的判断も何も無い。
ただ、理不尽な行いと、それによって傷つき苦しむ現実に怒りを覚えておられる。
だが、それでこそ我が主。でなければ仕えるに値せぬ。

「しかし、それは帝國との開戦を意味するのではないですか?」

静寂を破り、真っ直ぐに藩王を見ながら、尋軌騎士が言葉を紡いだ。
日頃、宅配で培われた笑顔は息を潜み、藩王を見つめる。

「それがどうかしたか。すでに告げた事は決定事項であり、是非は問うてはいない。」

藩王の挑みかかる様な視線を受けながらも、尋軌騎士はさらに言葉を紡ぐ。

「藩王は敵を救うとおっしゃるのですか?」

隣に座る戌人騎士が息を呑んだ。向かいに座るカヲリ騎士の目に怒りが宿った。

「敵とは誰の事だ、尋軌騎士。私の敵とは、誰かの笑顔を涙で曇らせるものだ!」

叩きつける様に藩王が言い放った。

「いえ、ただ確認をしたかっただけです。他意はありません。」

尋軌騎士は立ち上がり、頭を下げ謝意を表明した。
頭を下げながらも、その口元が微笑んでいる事に隣の月代騎士は気付いた。
そして、私もその微笑みをしっかりと確認した。
だから、彼があえてその様な事を口にした事を知った。
月代騎士も彼の真意を理解したのだろう、立ち上がり皆に聞こえる様に声を張り上げた。

「私は過去にこだわりません。猫は今日にしか興味がありません。だから、受け入れには賛成です。」

彼女の美声は会議室を満たし、他の騎士も彼女の意見に賛同した。

「そうです。もし、それで仮に戦争になったとしても、私は一心不乱の友情の為になら戦います。」

思いつめた顔で、手をわずかに震わせながら、みなお騎士が言い放った。
日頃、事務室で文庫を片手に静かにお茶を飲んでいる彼女からは、想像できない姿だった。

「そうだ。我々は一心不乱の友情の為に、大義を成さねばならん。友を見捨てることなどもってのほかだ!」

藩王がみなお騎士の言葉を受け、胸に溜まった怒りを吐き出しながら、言葉を継いだ。

「まあまあ、落ち着いて下さい藩王。国境を越えるまでは私達は手がだせません。」

凍矢摂政が口元に皮肉な笑みを浮かべながら、藩王を諌め言葉を続ける。

「まあ、もっとも越えてからは手を出せますがね。」

虚空を睨み、そこに敵がいるかの様に静かに言った。
彼もまた、この現状に腹を立てていたのだな。
私はその様子を見ながら、なんだみんな同じなんだと口元が緩む。
その証拠に、りんく騎士を筆頭に、新しく加わった騎士達も凍矢摂政の言葉に頷いている。

「そうだな、物も人も犬も猫も命だ。この国の人間は、救える命はなんでも救うのだ」

みはえる摂政も沈黙を破り、決定を下す一言を述べた。
後は、難民の受け入れ態勢の構築や、戦時になった場合の財政などが話し合われた。
私はこの国の吏族と星見司としての見解を述べながら思った。

この国はきっと誰の為に戦い、そして誰かの為に滅ぶだろう。
しかし、その時はこの場の皆と共に微笑みながら死ねるのだ。
それはなんと痛快で、たまらなく幸せなことだろう。
その考えに一人、口元を緩め微笑んだ。
この日を私は生涯忘れないだろう。
この胸を熱くさせる思いを。
叙勲の時に受けた藩王の言葉と共に。

「わが国は、世界忍者を規範として、義に生き義に死ぬがその定め。それを忘れないで欲しい。」

そして、亡命の日が訪れ、我が国に新たな仲間が増える事となる。
彼、松永騎士もこの国を愛してくれることを心より祈る。

○月×日 赤の騎士 川流鐘音の日記より 抜粋

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