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イベント59用SS
日時: 2007/03/14 23:17
名前: 緋乃江戌人 

此処はイベント59用SSの準備場所です。

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治療用SS 仮 ( No.1 )
日時: 2007/03/14 23:19
名前: 緋乃江戌人 

――― 悲しくないわけなんかない。ただ、治療時に泣くのは、視界の確保に支障が出るから、堪えているのです。 ―――

 人々の怒声、悲鳴。響きわたる轟音。伝わる地響き。其処は戦場の一角、前線から少し離れ、負傷兵達が集っていた。
彼等は待っていた。迫り来る死の恐怖に耐えながら、その恐怖にくじけそうになる心を押さえつけながら。
待ち人達への絶大なる信頼と共に。
 「来た!治療班だ!」
彼等の待ち人はマルチフィクサー率いる治療班。
国の誇る、最終最後の命の守人達。

「救護は心肺停止者を優先。直ちに蘇生、救命に移れ。」
治療班は負傷者にあふれた戦場にたどり着くと、直ちに救命に移った。
事前にその場に居た者たちから負傷者達の状況を聞き、
リーダーが次々に指示を飛ばしていく。
問題は、重傷者の後方への移送である。何時この場所が戦火に巻き込まれるかもわからない。
即座に治療が必要か、若しくは多少耐えられるか。それは治療に当たる個々の判断にゆだねられる。
リーダーにいちいちと判断を仰ぐ時間は、ない。

負傷者の一人。爆風により、細く鋭い木材が鋭利な刃物のように腹部に突き刺さっている。
何かが身体に刺さっているとき、大抵はそれをすぐには抜かないことが多い。
なぜならば、その物体が止血に作用しているからだ。
進入物を抜いたとたん、血が溢れ出て、失血性ショックに陥る場合がある。
しかし、彼らマルチフィクサーにとってはそんなことは問題ではなかった。
数瞬だけ目を閉じて精神集中し、かっと目を見開く。
それと同時に他のものの手によって抜かれる木材。抜かれるや否や、
彼らの手は神速の速さで患部へと伸び、侵入物の破片の除去、消毒、縫合までをも、
ものの数瞬でやってのける。出血はわずか。これが、彼らの努力の積み重ねの誇る技、
極限まで高めた集中力による神速の手技「神に至る手」。
マルチフィクサーのマルチフィクサーたる所以の一つである。
 「これで、こいつ、助かったんですか?」
そばで息を呑む暇すら与えられなかった、負傷者の友人らしき兵士が我にかえり、尋ねる。
 「応急処置はすませました。暫くは持つでしょう。ですが、
血が足りないと思うので後方に運んですぐに輸血を頼んでください。」
早くも次の負傷者の治療に移りながら、答える。
 「なに、この戦場に私たちが居る限り、誰一人として死なせませんよ」
その声は力強く、口元には、見る者に希望を与える笑みをたたえていた。

随時更新予定。
マルチフィクサーによる整備 ( No.2 )
日時: 2007/03/16 12:17
名前: 緋乃江戌人 

 機械を診ること。人を診ること。それはどちらも同じ事。
それは命を診ること。それが彼等、マルチフィクサーにとっての信念であった。

 戦場の一角に設けられた臨時の整備場。
戦闘で疲弊した機体や搭乗員たちにとっての束の間の安息の場。
そして其処は同時に、マルチフィクサーたちの戦場だった。

 「宜しく頼みます」
機体から降りてきたパイロットは、待ち構えていた
マルチフィクサーに片手を挙げて挨拶した。
マルチフィクサーはいくつかの器具を片手に持ちながら、つかつかと歩み寄り、
 『では、失礼しますよ』
徐に瞳を覗き込み、そして顔色を調べ、身体を触り・・・・・・身体検査をしだす。
 
 『何処か頭部に違和感は?』
 「いえ、ないです」
 『こうすると痛みは?』
 「いえ。」

身体にどこか異常はないか。疲労はどの程度か。筋肉の張り具合は?
この場で認識、測定できるだけの正確な身体情報を問診で得られる情報と共に記録していく。
『オールグリーン。では、調整をしますね。最終チェックまで、休息を。
パイロット、コパイの両名はあちらで補給を受けてください』
 そういうとマルチフィクサーはすぐに機体と向き合う。
既に大まかな補修は他の作業員によって行われている。
ハンガー侵入時の行動や駆動音から負担が出ているのではないかと疑われる部位を、
先ほど調べた搭乗者への負担のかかり方や問診などからも考慮して、
念入りにチェック、特定していく。機体に寄り添い、
調べる部位からの反応を確かめる姿は、自らの語りかけに対する
機体の声を聞こうと耳を済ませているかのようで。
彼らは、事実それを機体との「対話」と呼んでいる。
「治療」は「対話」ありきなのだと。そしてこうも言う。
「治療」は「手当て」ありきだと。患者に「触れる」こと。
それが大切なのだと。
 (やはり、此処か。今、治してやるからな。)
機体の頭部を見上げ、心の中でささやく。
一瞬、機体の頭部がうなずくように動いて見えたのは気のせいだろうか。
数瞬の間目を閉じ、そしてかっと見開く。次の瞬間彼らの「神に至る手」が煌いた。


追記
ええと、兎も角急いで書き上げたので粗が目立つかと。上記の「治療」SSも合わせて修正を入れていただけると嬉しいです。
国民避難施設とその誘導 ( No.3 )
日時: 2007/03/17 11:58
名前: みはえる@摂政 

 根源種族の侵攻が迫る中、宮中では連日のように対策会議が行われていた。徹夜続きの官僚達は疲労困憊であったが、それでも彼らの目には一様に光を灯していた。必ず生き残る。それが彼らの誓いである。

「よし、ではカヲリ。卿には国民の避難作業の統括をお願いする」
 みはえる摂政がそう言うと、いままで宮廷画家として部屋のすみっこで会議のスケッチをしていたカヲリが飛び上がった。
「は!? 私ですか!?」
「人手が足りないのだ。手を貸してくれ」
 机に座っていた閣僚達が一斉にカヲリを見る。その目は一様に「助けてくれ。あるいは1時間でいいから眠らせてくれ」と語っていた。さっきまではその瞳には光が灯っていた気がするのだが、気のせいだったのだろうか?
 沈黙を肯定と受け止めた摂政が続けた。
「なに、国民を安全な場所に避難させるだけだ。サポートもつけるし、それほど大変な作業ではない。責任は大きいがな」
「その責任が問題なのでは? いや、その前に、どこに避難させればいいんですか!」
 その言葉に、摂政を始め閣僚一同が沈黙する。え、なんか、言っちゃ行けないこと言っちゃったのかなとカヲリはうろたえた。もしかしてもう逃げ場とか無くて、私はなんていうのかな、スケープゴート? にされるの? あれ? 意味合ってるかな?
 カヲリが言葉の定義について混乱を極めていると、目の下に大きなくまが出来ているみはえる摂政は優しく笑った。激務のさなかに、癒しを見いだしたような笑みだった。
「そうか、卿はまだ知らなかったか。元は旅の絵師であったな」
「なにをですか?」
「あれがなにかはわかるか?」
 みはえる摂政は会議室の隅にある銅像を指さした。もちろんなにかはわかる。
「ロイ像……ですよね?」
「そうだ」
 摂政はロイ像の手前まで歩くと、その胸に手を当て、強く押した。
「ふん!」
「あの……なにをしてい、る……の? ……!!!!」
 ロイ像ががこん、と音を立てて30度ほど倒れる。と、同時に像の後ろの壁がごごごご、とせり上がり、下に続く階段が現れた。
「な、なにこれ!!」
「見ての通り、地下核シェルターへの入口だ。ロイ像は、国民避難用核シェルターの入口開閉スイッチなんだ」
「え、も、もしかして、108個のロイ像全部が!?」
「そうだ」
 カヲリは硬直した。カヲリの中の常識を遙か彼方で上回っていた。なんとか首を動かして摂政を見る。
「あの、ひょっとして、ロイ像のスタンプラリーって……」
「ああ、もちろん、レクリエーションを兼ねてはいるが、本来の目的は緊急避難経路の把握を国民に浸透させる為だ。初級コースは一般国民用の設備が整っているシェルターが配備されていて、難易度が高くなる程、軍事施設や国政運営用の機能が整っているシェルターになっている」
 頭がクラクラする。
「……ええと、じゃあ、最近みはえる摂政が初級コースを回っていたのは……」
「一般国民用シェルターの機能点検の為だが? 戦争が近いという情報が入っていたからな」
 カヲリは膝から崩れ落ちた。あまりに深すぎる。深すぎてネタなんだかそうでないんだかもう分からない。
 みはえる摂政は楽しそうに尋ねた。
「まさか、卿は、我が国が萌えと酔狂の為に、あのような像を108個も配置していたと思っていた訳ではあるまいな?」
(違ったんですか!!)
 喉まで出かけた言葉を必死に押さえる。身体がプルプル震える。
「……で、私は何をすればいいんですか?」
 摂政の顔がぱあっと輝く。
「そうか、手伝ってくれるか! では早速打ち合わせをしよう。まず卿には108個のロイ像の位置を全て把握してもらう必要がある」
「今からですか! 私まだスタンプラリー中級編までしかやってないんですけど!」というカヲリの声は閣僚達の歓声にかき消された。

 戦いの準備はまだまだ続く。

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