リンク切断 ( No.1 ) |
- 日時: 2007/05/29 14:39
- 名前: 結城由羅@藩王
- 藩王は忙殺されていた。なぜだか知らないが参謀本部に出仕し、護民官事務所にも顔を出し、うろちょろしているうちに摂政たちが姿を消していた。
別に藩王の暴挙にあきれて逃げ出したわけではない。単に広島への派兵に含まれていただけである。天領から戻ってみると、宮廷技手や団長も消えていた。
「どういう人選だ?」
藩王は首を傾げ、月代歌姫はぐれていた。
「私が行きたかったのにー」
そう、彼女は舞姫(と青)ファンなのだった。そんなこんなで日々は過ぎ、広島からの通信もこまめに入りそれなりの日々は過ごしていた。藩王は摂政不在による雑務処理増大を呪ってはいたが。
そしてその日は来た。宇宙からの謎の敵がニューワールドの広島を破壊し、第5世界・広島へのリンクが…切れたのだった。
「広島との通信不能!」
ニューワールド各地で悲鳴があがったが、どうしようもなかった。広島の復興より宇宙からの敵に対処しなければならなかった。降り注ぐ死の灰にも対処しなければならなかった。手をこまねいている間に、ただ時だけが流れてしまったのだった。
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悪い知らせ ( No.2 ) |
- 日時: 2007/05/29 14:41
- 名前: 結城由羅@藩王
- その日、世界忍者国の空は晴れていた。
「摂政たちは大丈夫ですかねー(もに」
世界忍者国戦後新築された王宮ロビーで、月代歌姫がティーカップを握りながらつぶやいた。
「彼らのことですからきっと大丈夫ですよ」
やはりティーカップを手にした鐘音財務大臣が、疲労のにじむ顔に無理やり微笑みを浮かべて頷きかけた。彼はここのところ、留守の摂政たちに代わって放射能除去ひまわりによる国土回復事業の指揮を執っており、絶対的な睡眠不足にあった。
「そうですねえ(もに」
微笑み返す月代歌姫にも、実のところ疲労の色は濃い。彼女は国民の不安を除去する広報活動のため、国営放送の出演枠を増やして縦横無尽に活躍していた。また、羅幻王国と協力して共同通信のレポーターもしていた。
「疲れたときは甘いものがいいですよ」
そんな彼らの前にメープルシロップがたっぷりかかったパンケーキを置いたのは尋軌騎士だった。どんな時でもその把握する輸送経路から最良の食材を入手して、王宮の食糧事情を改善するのが彼の趣味であった。
「連合国のリワマヒ国からの食糧供給のおかげでこんなものが作れるようになりました」
割烹着姿でにっこりと笑う。その国の兵站システムを彼は気に入っていた。
「わーい、ひろきしゃんの手作りおかしだー」 「あ、新作ですね」
月代歌姫のよく響く声に誘われたか、つるりを肩に乗せた弓尾透騎士がひょいと顔を出した。
「これも弓尾さんのおかげですよ」
あまり知られていないが、リワマヒ国の炊き出し祭りで彼女はスタッフとして働いていたのだった。
「大したことはしてないですよ」
尋軌騎士の言葉に彼女は肩をすくめた。
「なんだかいい匂いがしますね」
尋軌騎士が微笑んで追加のカップを取りに戻ろうとしたところで、書類の束を抱えたりんく騎士とはちあわせした。漂う甘い匂いに、鼻をひくひくさせている。
「パンケーキですよ。りんくさんもいかがです?」 「うわ、それはぜひ。でも、その前に、藩王に小笠原旅行者への申告書に認印もらわないといけないんですよ」
ああなるほど、と尋軌騎士は頷いた。りんく騎士は小笠原旅行社へのマイル申告を一手に引き受けているのだった。
「藩王ならぼちぼちお戻りになるころだと、思いますよ。リンクゲートの回復を確認して広島の情報を得てくるのだとか」 「ああ、それは気になりますよねぇ」
二人が頷きあってるところに、ふと影が落ちた。目を上げると結城由羅藩王が立っていた。その表情に、二人は声をかけようとして開けた口を閉じた。
「悪い、知らせだ」
藩王が口をつぐみ、何かに耐えるように目を押さえたあとため息をついた。何か言おうとして二人は再び黙った。声が出なかった。
「氷野凍矢摂政が戦死した」
絞りだすような言葉。背後でティーカップが落ちて割れる音がした。
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遠い、遠い空 ( No.3 ) |
- 日時: 2007/05/30 02:38
- 名前: 結城由羅@藩王
- 「うっかりにもほどがある…」
苛立たしげに藩王は呟くと、うっかり摂政のための追悼の辞をえいやと書き上げた。紙をたたみ、机の上に置く。
むっつりと口をつぐみ、腕を組んで考え込む。個人的には葬儀はやりたくなかった。死んでしまったことを認めてしまうと、あきらめてしまいそうだったから。だから、絶対にロジャーのための葬儀はしない、と心に誓っていた。
今回もしたくはなかったのだ。本当は。
「あの向こうが広島か…」
椅子から立ち上がり、窓のそばに立って遠く西の空を眺めて呟く。サターン王の魂のかけらは第5世界広島にあるという。うっかり摂政の魂もそのあたりにあるのだろうか?
救いに行くことのできる力があれば…。きり、と唇を噛み締めると、空を睨み付ける。
無駄かも知れないが広島へ行こう。探せないかもしれないがチャンスは狙おう。
「藩王、リワマヒ国より、弔電が届いております」
そっとかけられた声に振り返る。
「そうか、早いな…」
葬儀がもうすぐ開始されようとしていた。今一度、空を振り返ったあと、手を握り締めて扉に歩き出した。
広島の空は、遠かった。
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