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【SS】長い長い夜
日時: 2007/05/29 23:13
名前: 久堂尋軌 

広島へと出向していった別働隊からの連絡が途絶えて幾日。
連絡がないことは無事な知らせとばかりに、世界忍者国本土ではいつものように仕事に従事していた。

「さて、今日の仕事はこれで終わりっと…ロビーで誰かいるだろうし…ゆっくりするか…」

西の空に明けの明星が輝く時間帯に藩王の執務室でその日の仕事を終えた結城由羅は、緊急用の瞑想通信のスイッチが入った事に気がついた。
使ったことのない回路から呼び出し音が部屋に響き渡る。嫌な予感に囚われながらもスイッチをスイッチをオンにする結城。

「あぁ…もしもし」

「もしもし、陛下ですか?みはえるです」

その声は長い間苦楽を共にしていたしっかり摂政の声であった。

「なんだ、しっかり摂政かびっくりさせないでくれ。緊急なんてどうした?もしかして戦死者でもでたのか?」

半分冗談めいた声で通信先の摂政に話しかけると、一瞬の間が開いた後に結城にとっては衝撃的な言葉がみはえるの口から紡がれた。

「……はい、うっかり摂政が…氷野凍矢が…戦死いたしましたので、その報告にまいりました。」

その言葉に、一瞬頭の中が真っ白になるが慌てて笑いながら

「へ?何言ってるのしっかり摂政、あのうっかり摂政が死ぬわけないじゃない。うっかり死ぬとか言ってた凍矢君がそう簡単に…しっかり摂政がうっかりしちゃダメじゃない。あはは…」

パニックになりそうになりながらも、冗談だよね?と聞き返すがその答えは非情だった。

「いえ、通信が途絶して遅れましたが広島における市民救出の戦闘において…氷野凍矢ならびにナニワアームズのサターン閣下の戦死が確認されました。現在、タマハガネに乗って生き残り全員とご遺体をもって帰郷中です。残り数日で帰れると思います」

事実の衝撃に言葉を少なくさせながら、感情を堪えて結城は言葉を搾り出して言った。

「……そうか、わかった。あのサターン閣下もか…ナニワアームズも大変なことになったな…。体は持ってきてくれるのか…ありがとう。他のみんなは無事なんだな。道中無事に帰って来てくれ…」

言葉の所々に感情のブレがわかりながらも押さえる事は出来ずにみはえるに言うと、後でみんなからも連絡させると言って一度通信を切った。

まるで幽霊のような動きで執務室の隅においてある酒瓶とグラスを二つ用意すると、椅子に座り込んで二つのグラスに酒を注いでいった。
その時、執務室の向こうから慌しい足音と声が聞こえてきた。

「へいか…陛下!!た、大変です!」
「摂政が!うっかり摂政が!」

失礼しますの声もあげずに突然入ってきたのは、夜勤で残っていた緋乃江戌人騎士と扇りんく騎士だった。

「静かにしなさい。今、みはえる摂政から通信が入った。わかっている…どうしてそっちは知ってるんだ?」

言葉少なく二人を窘めると疑問を口にしながらも二人に背中を向けて椅子に座っていた。

「は、はい…。たった今、怜夜団長から…」

りんくの言葉に顔を頷くと、顔を向けないままに声を出して
「すまないが戌人病院長…私の名前でうっかり摂政の戦死を国民に伝えてくれないか。それと共に追悼の意をこめて、すべての機関は三日間の喪に服すように…そして…彼の体が帰ってきたら国葬を行うと…」

戌人は一度だけ溜息を漏らすと、「わかりました」とだけ答えてりんく騎士と出ようとしたのだが…。

「陛下…うっかり摂政が死んじゃったんですよ!それだけなんですか!」

仲良くしてきた仲間の死に気が動転しているのだろうか、目に涙を浮かべてりんく騎士が叫んだ。

(続く)
メンテ

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【SS】長い長い夜(2) ( No.1 )
日時: 2007/05/30 00:05
名前: 久堂尋軌@世界忍者国 

同僚の言葉に焦った戌人が、手を掴んでりんくを連れて行こうとするが力づくで解くと背中を向けている藩王に向かってりんくは叫んだ。

「なんで…なんで、そんな簡単に済ませられるんですか!」

「お、おい…よさないか…まずはみんなに伝えないと…行こう。りんくさん」

そう言いながら無理やりりんくと執務室を出ようとしたときに出口に新たな人影が現れた。

「えっと…凍矢さんが戦死ですか…」

青いパジャマにナイトキャップ姿で現れた久堂尋軌は力なく頬を掻きながら第一声を発するとそのさらに後ろには休んでいた他の騎士の姿も見えている。ほぼ本土に残っている騎士が全員起きたようだ。

「その声は尋軌か…たしか、君は暇だったな。君をうっかり摂政の国葬における葬儀委員長に命じる。国葬の日までに準備を円滑に整えてくれ。」

「わかりました。それではちょうどみんなが起きたようですので準備を始めます。あぁ…全員で始めますので30分…いや、1時間は執務室には来られませんがよろしいでしょうか?」

眠そうなのかワザとなのか力ない声で藩王にいうと答えを待っていて

「わかった…別に構わない…………ありがとう」

小さな声で答えるのを聞くと久堂は一礼してみんなを執務室から出るように促し、そして扉を閉めた。

「なんでみんな何も言わないのですか!摂政がしんだんですよ!」

未だに興奮の色が隠せていないりんくが廊下で声を荒げると傍に寄って腕を掴んでいた月代が、代弁するかのように涙を堪えた声で答えた。

「あのね…陛下はここにいる誰よりも凍矢さんとは長いわ。だからこそ…一人にさせてあげて」

みんなで少し歩きはじめると、ガシャーンとガラスの割れる音が先ほどいた執務室の扉からしてきた。
藩王が持っていたグラスを投げつけたらしい。そして明らかにわかる泣き声が扉のむこうから聞こえてきた。

「あ…」

「気づきましたか、りんくさん…。そう…陛下は藩王です。私たちとは違って涙を流すことを許される立場ではないのです。だから…一人の人としての時間を…差し上げたのです。」

りんくのさらに反対を持っていた鐘音大臣が諭すように言うと、りんくは頭をうなだれて自分の行動を恥じた。

「とりあえず…私たちが出来ることはこれから陛下の負担を出来るだけ減らしてあげることです。みんなで広島組を向かえて凍矢さんを…華やかに送ってあげましょうよ」

弓尾透の言葉にみんなが頷くと、それぞれの部屋へと向かって手配をし始めた。
執務室から聞こえる泣き声と音にはまるで聞こえないようにしながら…



メンテ

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