【SS】追悼
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- 日時: 2007/05/30 23:00
- 名前: 扇りんく@世界忍者国
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その日は、どこまでも高く、澄み切った青空が広がっていた。
「ただいま……」
ぱたん、と小さくドアを閉める音がした。 それに反応してパタパタとかける足音。そして届く二つの声。
「お帰り、りん姉ー」 「お帰りなさい、姉上!」
ひとつは春日彼方。もうひとつは風巻隆景。 三人で暮らしている部屋へと帰ってきた扇りんくに、いつものように声をかけたのだが。
「姉上!? どうなさったのですか!」 「りん姉!? どうしたんだ!」
二人が、別々にけれど同じような言葉を投げかける。 扇りんくの頬には、途切れることない涙が流れ続けていた。
「凍矢…摂政がね……」
そこから先は、きちんとした言葉にはならなかった。 目の前で困ったように立ち尽くす二人を抱きしめる。
「広島で……戦死、されたって……」
二人の肩に顔をうずめるようにして囁かれた言葉は、掠れていたけれど、悲しみを湛えて確かにその耳へと届いた。
「姉上……」 「りん姉……」
事態を察した二人の顔も、りんくと同じくらい青ざめる。 声もなく泣くりんくを、隆景は一緒に泣きながら、彼方は顔をゆがめながら抱きしめた。
「もっと悲しい人がたくさんいるから……いつまでも泣いているわけにはいかないの」
でも、とりんくは窓を見た。
「想い出はたしかに私の中にもあるから……」
今だけ泣かせてね、とさらに強く二人を抱きしめたのだった。
追悼の鐘の音が響く――
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