【SS】野戦病院にて
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- 日時: 2007/05/31 10:58
- 名前: みはえる@摂政
- みはえる摂政は夢を見ていた。戦場に行くといつも見る夢で、王宮でみんなが馬鹿話で盛り上がっている夢だ。目が覚めると消えてしまうが、あの場所に帰る為に生き残ろうと思える。
今日の夢は事情が違った。いつも談笑している輪の中に、うっかり摂政が入っていない。彼だけは一人離れた所で、みんなを眺めている。とても懐かしそうな目で。しかし同時に、とても寂しそうな目だった。
夢の意味を一瞬で悟ったみはえる摂政はガバリと起きあがった。野戦病院の中。ベッドから飛び降りて隣のベッドに駆け寄る。うっかり摂政は薄目を開けていた。
「ああ……しっかり摂政。俺、夢を見ていました」 「そうか」 「いつか……二人で海に出た時の夢です。ほら、ふたりでしっぽアンテナを回した……」 ふらふらと伸ばした右手を両手で握り返す。生気の無い手。
「俺……あの時は怒ってましたけど、本当は……楽しかった……。また、行きたいなあ……」 「行けるさ」
それは嘘だった。みはえるは出来るだけ落ち着こうとした。そうでないと涙が堰を切ってあふれそうだった。 うっかり摂政は2度咳き込んだ。ベッドに血が散る。
「しっかり摂政……藩王に、よろしく伝えて下さい。凍矢は、最後まで戦ったと」 「自分で伝えろ。それともなにか、お前はここで死ぬ気なのか?」
みはえる摂政の中でなにかが切れた。涙を流しながら、必死に語りかける。
「おい、ふざけるなよ? 世界忍者国の騎士は、自分で死に場所を選ぶ権利なんか無いんだよ。お前は、女王の許可なくして、こんな所で、死んじゃいけないんだよ!」 「……はは……、そう……でしたね、すみ、ま、せ……」 「仲間が待ってる! 帰るんだよ! 俺たちの国へ!」
返事は無かった。
みはえるはしばらく手を握りながらつぶやき続けた。その言葉を聞いている人間はいなかった。
「俺を……、俺を、置いていくなよ……凍矢」
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