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【SS】祈り
日時: 2007/06/02 00:12
名前: 鍋 黒兎@鍋の国 

 着けている猫耳カチューシャを神経質そうに弄りながら自分の受け持った班員に指示を出しながら、つい先程収容した怪我人の容態の報告を促す為に医療班に通信をしようとした矢先のことである。
 医療班の方から指揮テントに通信が来た。
 黒兎は全員助かったという知らせだと信じ、通信をつなぐ。
『医療班より報告です』
「C班指揮官鍋 黒兎です。報告どうぞ」
 それから次の言葉までの数瞬の沈黙に、黒兎はとてつもない恐怖を感じた。
『…。全力を尽くしましたが、4名、救いきれませんでした』
 無意識に大きく息を吸ったのが、自分でもわかった。
「りょ、了解しました。リストを…だれが、だれが」
『落ち着いてください指揮官。落ち着いてよく聞いてください』
「聞いてます、おち、つい、て。ます」
『では報告の続きを…。死亡者、世界忍者国摂政、氷野凍矢殿。それから、ナニワアームズ商藩国藩王、サターン王。サターン機に同乗していた猫士2名』
 目を閉じないようにして上を向き、深呼吸。指揮官の仕事は此処で泣くことじゃあない、と自分に言い聞かせた。
「……判りました。最後までありがとうございました。医療班の方々も、区切りをつけて一息ついてください」
 医療班からの通信は、テント中に聞こえていた。重い、重い空気だった。
「サターンさんの復活ゲームを」
 そう言ったのは海法さんだった。星見司の、遠くの世界を見る声だった。
 指揮官の仕事をあわただしく片付け、黒兎はテントを出た。ふらりと。
 外は地震と地割れと建物がたくさん倒壊して荒れている。そんな中でどうにかこうにか花を見つけて、丁寧に手折って、それから走った。医療班の居るタマハガネへ。
 負傷した市民が治療の順番待ちをまだしていた。
「あ、あん、安置所は」
 手を向けられた方を向くと、別室が作られていた。
 すでにこじんまりとした函に入れられ、国へ帰る時を待つだけになった凍矢さんの姿をみて、黒兎は膝をついた。サターンさんの函は、同じ部屋には無かった。
「護り切れなくて…ごめん、なさい」
 握っていた花をそっと、函の上に置いた。名も知らぬ花だ。
 涙を流してはいけない、と。それは指揮官としてではなく一人の人間の心として、最後の一線であった。
「ゆっくり、休んでください。私はもう少し戦ってきます」
 最後の旅路が平和であることを祈りながら、黒兎は白衣を翻して指揮官テントへ帰っていった。
メンテ

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