【SS】つるりさん設定用 ( No.1 ) |
- 日時: 2007/09/04 00:29
- 名前: 弓尾透@世界忍者国
- 人の姿でいることを好まないその年老いた猫士は、ほとんどの時間を猫の姿で過ごす。
彼の毛並みは、その年齢からは想像もつかないほどすべらかで、ただ瞳だけが彼の重ねた年月の影響を湛えている。 王城の屋上、そこが彼のお気に入りだ。毎日この場所で昼寝をする日課は一体いつから続いているのか、本人にも見当がつかない。 彼は、自分がもう何十年と守り続けたこの地をのんびりと眺めていられるこの場所が好きだった。 こうしてゆっくりと残りの余生をすごすのも悪くないと思っていた。
彼には名前が無い。ずいぶん前に呼ばれていた名は一線を退いたときに捨ててしまっている。 その時にはもう、その名前の名付けの親、つまり彼の主人は戦争で亡くなっていた。
いつのことだったか、突然国を挙げて戦争の準備が始まった。国の一大事らしく、まさに猫の手も借りたい状況だそうで、皆王城の中を慌ただしく走り回っている。 その間も、猫は毎日屋上へ通った。
戦争の結果は皆が知る通りで、この国のヒーローは消え、名のない猫士の愛したこの地にも大きな傷跡が残った。王城も、爆風に晒された屋上はなおのこと、無惨な姿だ。 それでも彼は瓦礫の散乱する屋上で、日課を欠かすことはしなかった。意固地になった老人は厄介だ。
不意に、一人の少女が王城の屋上に姿を見せたのはそんな折だった。
|
【SS】つるりさん設定用 ( No.2 ) |
- 日時: 2007/09/04 00:39
- 名前: 弓尾透@世界忍者国
- 歳は実際若いのだろうが、髪を二つにくくっているせいで余計に幼く見えてしまう。
なにか印象的な目、森国人としては平均的な体躯、あと頼りなさそう。 ひととおりの感想を心の中で並べると、名のない猫士は目を瞑って昼寝に戻った。
「こんにちは。そんなところで何してらっしゃるんですか?」背後から、少女の凛と響く声が聞こえた。 そういえば見ない顔だった。新参者なのだろう。 「………。」どうせ猫の言葉も分からぬだろうと思って無視を決め込む。少しの沈黙。 がしっ。「にゃっ!?」 突然しっぽを掴まれた。とっさにしっぽを引くとするりとぬけたので、その勢いで近くの大きな瓦礫に飛び乗る。眼下に、少女を見下ろす形になった。
「うへへ、噂どおりの素敵な毛並みですね。」妙に幸せそうな顔をして、一人でうなずいている。気味が悪い。 「………ねう。」『なんのようだ。』 言葉が分からぬのならそれでいい。話が通じぬ事を分からせて、さっさと帰って頂こう。 「…では、用件から。」すう、とこちらの目を見据えてくる。妙に印象的な目。 なんだ、猫の言葉がわかるのか?というか挨拶もなしに人のしっぽを…。 「お力を、貸して頂けませんか。」少女は続ける。
「―――――さん。」少女の口から出た言葉は、ずいぶん懐かしい名だった。
|
【SS】つるりさん設定用 ( No.3 ) |
- 日時: 2007/09/04 00:41
- 名前: 弓尾透@世界忍者国
- 脳裏をよぎるいくつかの断片的な記憶、懐かしい匂い、かつての仲間の顔。猫は少女を見つめ返す。
「先の戦争の少し前から、この国でお世話になっております。透と申します。」そう言って、少し頭を下げる。 「どうにも、力が足りませんでした…。あの戦争では、それを鼻先に突きつけられました。」 あの戦いで力不足を悔やんだ人間は大勢いたのだろう。年老いた猫もまた、その中の一人だった。 猫は依然、大きな岩の上にいる。 「あなたの、その知識と経験が必要です。お願いします、私にお力を貸しては頂けませんか。」もう一度、その目がこちらを見据えてくる。
猫は考える。 この国のこと。かつての仲間達のこと。今はもういない、輝くように笑う一人の青年のこと。 かつて、自分の付き従った、主人のこと。
辺りを見渡すと、開けた国が一望できる。 仲間達が、かつての主人が守ろうとした、今や傷つき果てた国土。瓦礫にまみれた王城。 こちらを見上げる一人の少女。
ああ、そうか。彼女の目は、あの人に似ている。 顔つきも性別すら違うけれど、猫に名前を与えた男に彼女の目はどこか似ていたのだ。 猫は声も出さずに少しだけ微笑むと、軽やかに少女の頭の上に飛び降りた。
「お…、重いです。」確かにそうかもしれないが、猫は動こうとしない。以前の主人といるときはここが定位置だったのだ。 少女には少し酷かもしれないが、それぐらい我慢して頂こうと猫は思った。意固地になった老人は厄介だ。
|