本文 ( No.1 ) |
- 日時: 2008/01/31 22:58
- 名前: 川流鐘音@世界忍者国
- 【SS】ただ一つの誓い
51407002
その日は、雲ひとつない夜空に満月がとても明るく輝いていた。
私は修復されたロビーで談笑する藩王と騎士たちの目を盗んで、こっそりとロビーを抜け出した。 冬が終わり、春が訪れたといっても、日が暮れるとまだひんやりとしている。 私はロビー抜け出す時に抱えていたコートを着て、王宮の右手にある小高い丘へと向った。
私は歩きながら、ぼんやりとここ最近の出来事を思い返す。 世界忍者国は先日の大戦で、かけがえの無いものを失った。
あれから一ヶ月が経ち、落ち着いた様に見える国内にも、敗戦の爪痕はまだくっきりと残っている。 破壊された国土や王宮。そして、何より喪失感に囚われ、虚ろな目をした騎士達…。
私は振り返り、先ほどまで居た王宮のロビーを見た。 そこでは、まだ騎士達が思い思いにくつろぎながら、談笑に耽っている。
だが… 無理に明るくしようと、話題に興じる姿に、私は胸が痛くなった。 そして、自分もまた無理している事に気が付いて、居たたれなくなりロビーを抜け出した。
小高い丘をゆっくりと登りながら、何度も振り返り「たられば」を思い、否定しては溜め息をつく。 それから息を整えて、何かを振り切るように私は小高い丘を登りきり、丘の頂きにある大きなくぬぎの下へと辿りついた。 くぬぎの下には、まだアースに藩国があった頃に、私と共にあった犬士”ばうわん”の亡骸が埋葬されている。 バトルメード”みーこさん”と共に瀧川防衛作戦に於いて、戦い、その短い一生を終えた戦友の墓として、ここに私が埋葬した。
「やあ…、また来たよ。ばうわん。」
私はしゃがみ込むと、小さな墓標を撫でながら話しかけた。
「なんでだろうね。君達を失った時も辛かったけど、ぽっかりと胸に穴が空いて、塞がらないなんて事は無かった…」
溜め息をつき、立ち上がる。
「いや、分かってはいるんだ…。まだ受け入れられてないんだ。」
腰に差してある刀をスラリと抜いて、月明かりにかざす。 月の蒼い光を反射して、刀身が蒼く染まる。 この国に仕えた時、騎士位を叙勲した際に藩王より賜った刀である。 華奢な森国人に似つかわしく無い名刀で、先日の大戦でも使われる事の無かった、おそらく血を知る事の無い刀。
胸のつかえを振り払う様に刀を振るう。
「はぁっ はっ」
短い掛け声と共に、刀の空を切る音だけが私の意識を埋めていく。 だが、華奢な森国人の身体が耐え切れず、息がどんどん上がっていく。
ざしゅ
刀を地面に突き刺し、地面に転がる。 力の無い自分が恨めしい。
「力が欲しいな…」 「何もかもを倒し、何もかもを護れる力が…」
そう、あの少年。 自らを青く染め上げ、何もかもを蹂躙しながら護るべき少女の為に、全てを排する力を持つ少年。 少年の物語が私をこの国へと誘った。
「こんな考えはきっと間違っているんだろうな…」
もう一人の自分が間違っていると言っているのを感じている。 だけど、護りきれなかった現実がそれを激しく阻むのも感じていた。
「とりあえず、出来る事をやるしか無い… もう、こんな思いはたくさんだ。」
火照った身体の熱を冷たい地面で冷やして、空に浮かぶ満月をじっと見つめる。
「次こそは護ってみせる。悲しい涙は流させない。」
私は蒼く輝く月をその瞳に写しながら、この時から自分のあらん限りを振り絞る決意を固めた。 全てを出し切れば、後悔も何も無いとこの時は信じていた。 だが、私の心に巣くった闇はこの時から居たのだった…。
誓いは破られ、私は苦悩する事になる事など、この時は思いもよらなかった…。
<了>
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