Re: 【SS】松永さん歓迎漫画の其の後 ( No.1 ) |
- 日時: 2007/02/05 21:40
- 名前: 緋乃江戌人
- 『陛下、私は裏切り者です。』
『なれど、この心はいつも帝国の兄弟たちと共にあるつもりです。もちろん、共和国の兄弟たちとも。』
『陛下、どうか…』
『……ありがとう、ありがとうございます。』
早朝、結城騎士にトウモロコシ畑を見せられた後、松永騎士は眠気と身体の痛みからふらふらする身体を引きずって再び病院へと戻った。病院を抜け出したのだから多少は騒がれているかと予想したけれど、病院の人々は事前に話があったのか「お帰りなさい、いかがでしたか?」と微笑むのみだ。ベッドへとたどり着いたのと同時に、今閉めたばかりのドアが開き、いい匂いが彼の鼻をついた。 ぐぅ…。 身体はまだ重いけれど、騎士たちと触れ合うごとに軽くなっていった息苦しさは、食欲を抑圧するほどではなくなったようで、久々に感じる食欲と共に、お腹が鳴った。 「ふふ、身体、動かしましたものね」 朝食を運んできた扇騎士がくすりと微笑む。横では彼方騎士が笑っていた。 松永騎士は気恥ずかしさに頬を染めながらも、頷いた。
「にゃんにゃんの料理は慣れないけれど、別に悪くはないな。」 松永騎士。 「良かった。調理担当も、喜ぶでしょう」彼方騎士。 病院の調理場には料理を綺麗に平らげられた皿だけが、運ばれた。
カルテを手に持ちながら、窓際に佇んで窓の外をぼんやりと眺めている緋乃江騎士を見つけて、逢瀬騎士は駆け寄った。足音に我に返る緋乃江騎士。 「ああ、みなお君、どうしましたか?」 「朗報です。彼、朝食全部食べたそうですよ。」 嬉しそうに報告する逢瀬騎士。松永騎士については、騎士中の心配の的であった。 「おや…そうでしたか。良かった、…実に。」 その報告に微笑んだかと思うと、何か考え込むような素振りを見せる緋乃江騎士。 「どうか、しました?」 心配になった逢瀬騎士が尋ねるが、 「いえ、何でも・・・、ああ、そうだ。みなお君、一つ頼み事をしてもいいでしょうか?」
「え?」 「ですから、松永さんには何かお好きな料理ってあるのかな、と。」 昼食時に出た、彼方騎士からの質問に松永騎士は困惑した。 自分は、にゃんにゃんの料理なんて知らないのだが・・・相手もそれを知っているだろうに。 肉料理、とか魚料理、とか答えればいいのだろうか。そんな松永騎士の悩みを察したのか、扇騎士が口を開く。 「わんわんのものでも良いんですよ?わんわんにはどんな料理があるとか、知りたいですし。」 ならば、と松永騎士は少し考えた挙句、料理の名前を口にした。
夜 松永騎士は故郷の夢を見ていた。 故郷で、皆と笑って食事をしている夢を。料理は、自分の大好物ばかりだ。 ああ、これは夢なんだな、と即座に理解する。理解してしまった自分が、悲しかった。 きっと、さっき好きな料理の話なんてしたからだろう。もう、多分会えないのに。 でも、夢でだけでも―――― 「松永さん、起きてください。松永さん。」 ――――友に会えるのならば 「松永さん」「まつながさん」「まーつなーがさんっ」 ああ、自分を呼ぶ声がする。そうして松永騎士は夢から覚め、うっすらと目を開けた。 「あれ、・・・・・・晩御飯、ですか?」 いつもの二人の騎士に加え、逢瀬騎士もそこにいるのを認め、空の暗さを確認してつぶやく。 「―――あれ?この匂い」 夢に出てきた、料理。その残り香が残っているかのような錯覚を覚える。否、錯覚ではなかった。微笑む三人の騎士たちの後ろの机。そこに並んでいるのは――。 「なん、で?いや、どうやって?」 さっきの話だけで料理が作れるとは、到底、思えない。 ガラッ 「お、ここだここだ。お邪魔しますよ」 「お邪魔するよ」 「やっほー」 他の騎士たちも入ってくる。皆、一度は顔を見たことがあるものたちばかりだ。問いたげな視線を、元いた三人に向けると、扇騎士が口を開いた。 「松永さん、良くなったから皆でわんわんの料理食べて歓迎しようって。ほら、怪我して此処に来たから歓迎会、出来なかったじゃないですか。」 いや、それにしては病室がそこまで広くないのだけれど。というよりも、聞きたいのはそこではなく――。 「ああ、もう、まだ手をつけちゃだめですよ凍矢摂政!」 「あれ、団長は?また迷子?」 「みはえる摂政、ちょっとくらい仕事後回しにしてくださいよう」 もう、病室内は騒然としている。聞くタイミングを完全に逃したようだ。そばに来た結城騎士が、寝不足は大丈夫―?などと聞いてくる。 暫く呆然としていた松永騎士だったが。 「ははっ。はは…はっはっはっは・・・・はっはっはっはっはっは」 笑い出す。その頬には、一筋の涙が。
「いいのか?行かなくて」 院長室。明かりもつけずに、椅子に座って星を眺めている男に、廊下の光を背にして世界忍者国藩王たる結城由羅は声をかけた。 「藩王・・・・・・私は、今やらねばならない事がありますから」 「明かりもつけずに、か?卿にしては下手な言い訳だな。」 「・・・・・・・・・」 ドアが閉まる。再び部屋は暗闇で満たされ、月と星の光のみが室内を照らす。結城藩王はそのまま室内へと入り、彼とは背中合わせにソファへと腰をかけた。 「大丈夫だ」 「・・・・・・・・・・・・だといいのですが。」 「卿は余が信じられないのか?」 「・・・・・・・・・いえ、そのようなことは」 ふっと、藩王は微笑むと、あたりに顔を向けてから再び口を開く。 「ふむ、美味しそうだな。」 「残って、ますか?」 「ああ。卿の服に染み付いているようだよ。」 「そうですか・・・。確かに、香りが強い素材を使いましたからね」 「匂いを嗅いだら、腹が減った。だが病室への行き方がわからない。団長ではないがな。そして腹が減ったのは卿の所為だ。案内しろ。」 苦笑。 「御意。」
此処にも、友がいて、そして笑い合える。
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