ロジャー病院を訪問する ( No.1 ) |
- 日時: 2007/02/12 13:58
- 名前: 結城由羅@藩王
- 緋乃江戌人病院長は、世界忍者国きってのイケメンである。いや、単に美形であるというだけなら、うっかり摂政やしっかり摂政をはじめとして、眼鏡美形には事欠かない。彼が特別なのは、その物腰の上品さと気配りが飛びぬけているからである。しかし、彼にも、弱点はあった。
ロジャーである。
品行方正の鑑のような彼が、どうしたわけかロジャーにだけは弱かった。義理堅い彼が故国から脱藩して追ってくるほど、惚れこんでいる。ちなみに、どのロイが好きなのか、と問われたときこう答えていた。
「一番好きなのはRSぽいけど光太郎の為にロイっぽい彼ですね。」
目の前にいるのはRSでもロイでもない世界忍者のロジャーだけど、それでも嬉しかった。
そう、目の前に、ロジャー…緋乃江戌人病院長は、微かに頬を染めてうつむいた。周りの病院関係者が、興味深々でその様子を見ていたりする。
(は、恥らってる。病院長が恥らっていますわよ、うっかりの奥様!) (ええ、藩王な奥様、めったに見られない光景ですわ!眼福ですことよ!) (静かにしていただかないと、聞こえませんわ、お二方)しー
ついでに、王宮関係者というかロイフリークスは当然のように覗きに来てたりするが、緋乃江戌人病院長は、それどころではなかった。
「せ、戦時にあたっては食糧や医療資材の備蓄をおこない…」
整備された倉庫を見せながら、ときどき舌を噛みそうになって焦りつつも、説明をがんばっている。ひょんな話から病院を見学してみたいと言ったロジャーのために、中央病院を案内しているのだ。
「先日行われた炊き出しでは、本病院では通常よりも工夫を凝らした病院食をふるまい、より病院と地域社会との緊密な関係を築くことを試みました…」
同じく整備された厨房を見せ、ロジャーが穏やかに頷くのを見て、ほっと胸を撫で下ろす。
「応急手当や、病気予防の為の生活改善法の公演会、伝染病への注意の呼びかけ等を行い、病院にかかる負担を減らす努力も行っております。また、地域のマルチフィクサーとも連携を取り、中央と地域での医療分業も推し進めています。」
医療チームを紹介すると、恐縮する彼らに向かって、ロジャーは優しく微笑みかけた。ロジャーというよりは、優しいロイの横顔。
「いい、病院だ…でござるな」 「あ、ありがとうございます。…そう言っていただけると、その…」
感動で涙が出そうだ。と、緋乃江戌人病院長は、本気で瞳を潤ませながら思った。
「…ありがとうございます」
それ以上言葉を続けることができずに、ただ繰り返した。
ふと、目を上げると、緑に覆われた中庭が目に入る。その中央には、大きなロイ像が設置されていた。緋乃江戌人病院長が、赴任直後に建てたものである。
「…どこにでもあるな…」
ロジャーは微苦笑を浮かべると、懐からスタンプカードを取り出した。
「あれにもスタンプ台があるでござるか?」 「は、はい!もちろん!」
緋乃江戌人病院長が、真っ赤になりながら答えた。
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ロジャーとお茶 ( No.2 ) |
- 日時: 2007/02/25 21:17
- 名前: 結城由羅@藩王
- 戌人病院長がロイ像と共に新設したもの、それは茶室である。
病院の中庭の、公園状になった区画、そこの幾分奥まった場所に、それは建てられた。萱ぶきの小さな木造の建物である。入り口は小さく、屈んで入らなければならない。
建築を請け負ったマルチフィクサーが怪訝な顔をしていたことを思い出して、戌人病院長はふっと微笑んだ。
ロジャーは慣れた感じでひょいとくぐっていく。間違った格好のため誤解を受けやすいが、この男は日本文化には造詣が深い。その優雅な所作に、戌人病院長はひっそりと感嘆のため息をついた。
「ほう、中は畳でござるか。本格的でござるな」
戌人病院長はいそいそ続いていたが、そう声をかけられて、はにかんで頷いた。
「わんわん帝国の東国人の国より取り寄せました。東国人は極めて和風な生活様式なので」
藩王が東国人ならば良かったのに、とぶつぶつ言っていたことを思い出す。洋風のこの国に無理やり和式の文物を持ち込んでいるため、ちぐはぐなところがあるのは否めない。
しかし、この茶室は純和風で、ふっと気を抜くと日本にいる気になった。
「よい、茶室でござる」
その空気を楽しんで、ロジャーがゆったりと坐りながら言った。戌人病院長がますます頬を染める。藩王を筆頭とする世界忍者国奥様軍団がいたら、ひそひそと姦しくしているところだ。
「まあ、病院長ったら頬を染めてますわよ」 「藩王奥様、それは、ロジャーと二人っきりですもの、仕方ないと思いましてよ」 「いいなぁ、ロジャーとお茶…」
そう、こんな風に、とうんうんと頷いた戌人病院長は、はっと気がついて顔を上げた。
「な、何を覗いてるんですか!」
入り口から覗いていた三人に叫ぶと、三人三様に逃げていった。
「まったくもう…」
はっはっは、とロジャーが笑っている。
「あの三人は仲がいいでござるな」 「ええ、まあ、そうですね」
仲がいいというか、ロジャーのストーカーなだけな気がするが、と心の中でだけ呟いて、戌人病院長は、ため息をついた。落ち着こう。そして、静かに精神統一をすると、扇子を前において、朗々とよく響く声で挨拶を始めた。
「本日は良くいらしてくださいました…」
/ * /
「良いお手前でござった」
茶室を出るころには夕暮れで、夕日がロジャーの白い頬を赤く染めていた。振り返って微笑むロジャーに向かう戌人病院長は、自分の顔も赤く染まっているのだろうな、と思いながら礼をしどろもどろに呟いた。
「いえ、喜んでいただけたなら、それが何よりです」 「久しぶりに心が洗われるようでござったよ」
優しい眼差し。その視線の先が幾分遠く感じられるのは、どこか遠くにいる友人との記憶でも思い返しているからか。それとも、自分の歩んできた修羅の道を思ってか。なぜだろう、と思わずその瞳を見返すと、ロジャーはふっと笑った。
「さて、みんなで、王宮に帰るでござるか」 「みんな?」
と、問い返すと、ロジャーは笑いながら親指でとある木を指差した。藩王とうっかり摂政と団長が張り付いていた。
「あなたたちは何してるんですか!!」
思わず叫ぶと、三人はえへへ、と頭を掻いた。しっかり摂政は…大変だ、と頭を抱える。
「もう、仕方が無いですね。帰りましょう」
ため息をついて頷くと、三人が嬉しそうに合流した。
「とりあえず、ひとつのベッド三人は勘弁して欲しいでござる」 「…サブベッドを用意させます」 「男三人並んで寝ているのが面白いのに」 「あなたは何を考えているんですか!!!」 「じょーおーさまーロジャーの前で変な趣味は出さないほうが…」
世界忍者国は今日も平和だった。
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