ロジャー退屈するの巻 ( No.1 ) | 
- 日時: 2007/02/25 18:13
- 名前: 結城由羅@藩王 
  
  - 世界忍者ロジャー・サスケは退屈していた。世界忍者国は平和でのどかで……要するに、やることがなかった。国を挙げての三日三晩の歓迎会には辟易したものの、終わってしまうと国賓というものには仕事がなかったのである。何かしようとすると、私がやりますから、と取られてしまう始末である。
  「退屈でござるよ…」
  ロビーで口をへの字にして呟いていると、通りがかった川流鐘音騎士がそれを聞きとがめて微笑んだ。
  「ああ、ではスタンプラリーでもいかがですか?」
  世界忍者国の吏族筆頭にして天文台所長でもある彼は、実は副業で観光案内ガイド「世界忍者国の歩き方」を執筆していたりもする。この国での観光には強いのであった。だから、まずは、初心者には必ず勧めるロイ像スタンプラリーをロジャーにも勧めてみた。
  「わが国に沢山ロイ像があることはご存知ですよね」 「ああ、沢山あるでござるな…」
  ロジャーは苦笑した。この国にやってきて、自分のビキニ像があちこちにあったらぶっ倒れそうになるだろう。ぶっ倒れそうになっているロジャーを、藩王がものすごく情けなさそうな顔をして見ていたことも思い出した。
  「あの像は、実は108個ありまして、スタンプ台が設置されているんですよ」
  鐘音騎士は、ロビーに飾られた等身大のロイ像に近づくと、その足元を指差した。
  「こんな風に」
  そして慣れた感じで胸元からスタンプカードを取り出すと、ぽん、とそのスタンプを押してロジャーに差し出した。
  「初級が13個。中級が次の33個で、計46個。上級49個で、計95個。コンプリートが最後の13個で、108個になります」 「…その数はどういう由来でござるか?」
  カードを受け取りながら、ロジャーは気乗りしなさそうに聞いた。
  「さあ、うちの団長…環月怜夜団長が決めたというお話はお聞きしましたが、詳しいことは知りません」
  鐘音騎士は、肩をすくめた。そして、カードを手で弄んでいるロジャーを見て、にやり、と笑った。
  「初級、中級、はともかく上級、さらにコンプリートはかなり難しいですよ。僕も半年かかりました」 「へえ」
  ロジャーは、少し興味を示したようだった。
  「まあ、暇つぶしにはいいと思いますよ」
  鐘音騎士は、ははは、と笑うと手を振って去っていった。
  「暇つぶしねぇ」
  ロビーに一人残されたロジャーはカードをかざして、ふむ、と唸ると、肩をすくめた。
  「まあ、暇なのは確かでござるし、やってみるでござるか」  
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  ロジャー初級ゲットの巻 ( No.2 ) | 
- 日時: 2007/02/25 18:48
- 名前: 結城由羅@藩王 
  
  - 数日後、スタンプラリーカードを手に城下町をうろつくロジャーの姿が見られた。
  「あんなに楽しそうにスタンプ押してる人ひさしぶりに見ました」(中央塔係員の証言) 「コスプレも似合ってるねー。うちで雇いたいくらいだよ」(饅頭屋のおばちゃんの証言)
  「なかなか楽しいでござる」
  ご機嫌で10個ほど集まったカードを眺めるロジャー。ふと、その目が街中をやはりうろうろしている男にとまった。
  「そこなるは、…摂政殿ではござらぬか?」
  歓迎宴会の間中、もじもじする藩王や上ずっているもう一人の摂政を尻目に、てきぱきと諸事を取り仕切っていた人物だったと記憶していた。確か、しっかり摂政、と呼ばれていたか。名前は…。
  「おお、ロジャー殿ではありませんか。ええ、不肖ながら摂政を務めさせていただいております、みはえる、です」
  名前を思い出そうとしてることを、察したか、物腰上品な眼鏡の美青年は柔らかく微笑むとそう自己紹介した。軽く会釈すると長い緑の髪がさらりと揺れる。
  「そうそう、みはえる摂政殿、…もスタンプラリーでござるか?」
  みはえる摂政の手に、自分のものと同じスタンプラリーカードを認めて尋ねると、彼は微かに頬を染めて頷いた。
  「…ええ、その、お恥ずかしいことに、全くやっておりませんで。多少暇ができたのでやってみようかと」 「おお、そうでござるか。拙者も薦められて始めたばかりでござるよ」 「ああ、そうなのですね。…どれくらい溜まりましたか?」 「今10個でござる。もう少しで初級クリアでござる」
  威張ったように言うと、みはえる摂政は、はははと笑った。
  「そうですか、私はまだ5個ほどです。今から、この先の広場にあるロイ像に行こうと思ってるのですが、そちらへは行かれましたか?もしまだでしたら一緒に行かれませんか?」 「そこはまだでござる。では案内を頼むでござる」
  みはえる摂政の提案に、ロジャーは嬉しそうに頷いた。みはえる摂政も微笑む。
  「それは良かった。あと3つほどでしたらお付き合いしますよ」
  / * /
  「初級クリアですね。おめでとうございます」
  ロジャーが13個目の判子を押すのを確認して、みはえる摂政はお祝いを述べた。そして、言葉を継ぐ。
  「王宮に戻りましょう。スタンプラリー事務局で、初級認定証とぷちロイ像キーホルダーがもらえますよ」 「それは初耳でござる」
  満足げにカードを眺めていたロジャーがちょっと驚いたように言った。
  「おや、鐘音騎士が説明し忘れたのかな。中級では銅製のぷちロイ像が、上級では純銀製のぷちロイ像が、コンプリートでは純金製のぷちロイ像がもらえるそうですよ。賞金も出るとか」
  そして、苦笑した。
  「まあ、中級以降は難しいらしいですけどね」 「ふうむ」
  ロジャーがあごを撫でた。
  「初級のキーホルダーはお土産品だから、結構簡単にもらえるんですよ。詳しい説明は事務局でしてもらえるはずです。行きましょう」 「そうでござるな」
  / * /
  数日後、摂政のお財布に初級のプラスチック製キーホルダーがぶらさがっている姿が見られたという。  
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  ロジャー中級に挑戦するの巻 ( No.3 ) | 
- 日時: 2007/02/26 04:59
- 名前: 結城由羅@藩王 
  
  - 「『現在特別キャンペーン中。中級で純銀製ぷちロイ像ストラップの2個セットがもらえます。期間限定、今だけです! これを手に入れて彼女に贈るのが、最近の恋人達の流行です。』…こんなものを贈られて嬉しいのでござろうか…」
  ロジャーは、スタンプラリー事務局でもらったパンフレットを眺めて目をぐるぐる回した。そこには色鮮やかに印刷された、賞品の画像がそんな説明文章とともに載っていた。一ページに一種類という豪華なつくりで、事細かなノウハウみたいな記事まで掲載されている。ページをめくると、上級の説明もあった。
  「『そして、こちらが上級の純金製ぷちロイ像です! 本来コンプリートでしかもらえない純金製ぷちロイ像を手に入れられるのは今しか無い!』…なんのキャンペーンなのでござろうか……『ロジャー様歓迎特別キャンペーン中!!!』」
  ロジャーが最後のその文を読んで吹いた。
  「ま、まあ、結構なことでござるよ」
  苦笑いしながらスタンプカードを取り出した。そのスタンプシートには、「良く頑張りました。次は中級を目指して頑張ってください」と書かれた証書が挟んである。そして、裏面の初級の欄には花模様の「良く出来ました」判子。
  眺めていたロジャーの口の端が、にんまり、と持ち上がった。実は嬉しいらしい。
  「次は中級でござるよ♪」
  鼻歌まじりに、今日もスタンプラリーにでかけるロジャーであった。
  / * /
  「このへんにあると聞いたでござるが…」
  きょろきょろとロイ像を探すロジャー。もう街中は調べつくして、遠出になりつつある。今日は温泉街へ続く山道の途中にあるというロイ像を探しに来たのだが、なかなか見つからなかった。
  「さすがに、中級からは難しいでござるな」
  ここを越えた温泉街や、世界忍者テーマパークとか、日帰りでは行きにくい場所に結構あるという。いや、ひとっぱしり行けなくはないのだが、そのあたりはせっかく行くならばゆっくりしたい場所である。
  「今度連れて行ってくれと頼んでみるかな」
  ふっと、ロジャーは微笑んだ。藩王を筆頭に騎士団が総勢おお喜びでついてきそうだな、と思った。まあ、いい加減、行動が読めてきたとも言える。
  「ふええええ」
  その泣き声が聞こえてきたのは、そんなことを考えながら山の小道を歩いていたときであった。
  「?…はて、どこからか女の子の泣き声が聞こえるでござる」
  首を傾げて、泣き声の方へ、雑木を掻き分けて進んでみる。いた。木々に囲まれたちょっと開けた広場に、ぺたん、と座り込んでふええと情けない声をあげている、少女が、いた。
  こちらに背を向けており、背中まで豊かに垂れる黄金の髪が、しゃくりあげるたびに揺れている。その足元には、スケッチブックが転がっていた。その衣装は、王宮というか、整備工場や病院でよく見かける白衣、の下につなぎの皮の作業着のズボンが見えている。あれは確か…
  「…マルチフィクサー?」
  思わず口から漏れた呟きに、少女はぴくりと身体を震わせた。おずおずと振り返り、ロジャーを見る。よく状況が飲み込めてないらしく、口がぽかん、と開いていた。
  「道に迷ったでござるか?」
  余所行きのとっておきの笑顔――団長あたりが見たら、うそ臭い、と呟きそうな明るい笑顔と声で話しかける。少女ははっと、話しかけたのが誰か気がついて、顔を真っ赤にした。
  「えっと、あの…はい、道に迷ってしまって…」
  少女は恥ずかしそうに答えると俯いてもじもじした。
  (あの女と比べると随分素直だな)
  どうせ素直じゃありませんよ、という声が聞こえてきそうな気がして、ロジャーはふっと微笑んだ。その笑みには気がつかなかったらしく、少女はスケッチブックを拾い上げながら、慌てて立ち上がった。スケッチブックの間からひらり、と紙が落ちて、ロジャーの足元へすっと流れた。見たような色と形のその紙を拾い上げるロジャー。
  「…スタンプラリーカード、でござるか」 「あ、あわわ、…えっと、はい、あのその、ロイ像がこのあたりにあるって聞いて、その」
  慌てて取り返そうとする少女。ロジャーは微笑んで、カードを返した。
  「奇遇でござるな。拙者も探していたところでござるよ」 「え、そうなんですか?」
  少女が嬉しそうに笑った。ロジャーが頷く。
  「良かったら一緒に探すでござるよ」 「え、いいんですか?」
  もじもじと白衣をつまむ少女に、ロジャーは、はは、と笑った。
  「もちろん。スタンプを押したら家まで送るでござる」
  ここに置いていくわけにもいくまい。
  「あ、ありがとうございます!」
  真っ赤な顔をしてぺこりとお辞儀をするのへ、問いかける。
  「名前はなんと言うでござるか?この近くの人でござるか?」
  少女はあわあわと慌てふためいたあと、消え入るような小さな声で名乗った。
  「あの、…王宮で宮廷技師をしています、カヲリと申します。あの、多分覚えてはおられないかと思いますけど…歓迎宴会では絵を描かせていただいておりました」
  ロジャーは一瞬空を仰いだ。苦笑いしながら頭を掻く。
  「あー、それは失礼したでござる」
  そして、すっと優雅に一礼する。ロジャーというよりは、RSのような所作。
  「改めまして、カヲリ殿、拙者にエスコートさせていただけますか――でござるか?」
  カヲリは卒倒しそうになりながら、ぶんぶんと頷いた。
  「も、もちろんお願いします!!」  
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  ロジャーコンプリートの巻 ( No.4 ) | 
- 日時: 2007/03/01 07:21
- 名前: 結城由羅@藩王 
  
  - さて、それからしばらくの時が流れた。途中の、スタンプラリー温泉街編と、世界忍者テーマパーク編、他、は割愛、もとい別の機会に譲る。ともかく、さまざまな苦労を乗り越えて、ロジャーはコンプリートに近づきつつあった。
  / * /
  「ふっふっふ、あと1つでござる。苦節んーヶ月、とうとうあとひとつでコンプリートでござる」
  とうもろこし畑を前に、ほとんど判子で埋まったスタンプラリーカードを掲げ、にんまりするロジャー。とうもろこし畑管理人が心血を注いで豊かな実りをなすようになった、その畑にはあちこちに案山子が立っていた。別名、ロジャー案山子。
  何が悲しくてか、この国の案山子はロイ像の姿をしている。案山子にまでしなくても、と思うところだが、国民のノリの良さに案山子までロイ像になってしまった。どこか間違っている。
  その案山子の一体にスタンプラリーのロイ像が隠されていると聞いて、ロジャーはここまでやってきたのだった。
  「あったでござる。これでござる」
  数時間後、ひときわ立派なそのロジャー案山子に到達したロジャーは歓声をあげた。そして、はた、と我に返るロジャー。
  「ここの像はカラスにも誰にも愛されてないでござるよ!!」
  思えば、今までのロイ像は、たとえ山奥にあろうとも大事に飾られていた。スタンプラリーにくる観光客をはじめ、その世話をする者には事欠かなかった。特に街中の像でスタンプを集めていると、近くにいる人間が寄ってきたものだった。「本物そっくりー」とか「ファンですー」と。それに、「照れるでござるー」などと言いながら、でれでれしていたロジャー。
  しかし、ここのロイ像は案山子だけに誰からも放置された状態だった。カラスが一羽頭に止まって、ロジャーを見下ろしてカア、と鳴いた。
  「かわいそうでござるよ!」
  その様子を見て涙するロジャー。顔を上げると、決意したように言った。
  「目立つように飾りなおすでござる」
  いや、それ案山子だから…。
  そして、いそいそと案山子を移動するロジャーの姿を見ているものがあった。赤の騎士団団長、環月怜夜である。いつものストーカー面子が多忙のため、今日は一人でロジャーの追っかけをしていた。そっと、影からロジャーの様子を伺って、和んでいた。さっさと近づけばいいものだが、そこが微妙な女心というものだろう。
  ロジャーも大抵間違っているが、彼女はさらに間違っていた。ロジャーが、移設を完了して、鼻歌混じり立ち去ったのを確認後、そっとロイ像に近づいた。
  「ロイ像…こんなところを啄木鳥につつかれて…かわいそうに」
  一体誰に渡すつもりだったのか、手にはラメ入りのジャケット、と真っ赤なラメマントを持っていた。それを、そのロイ像…ロジャー案山子にかけた。
  「案山子だもの、キラキラしなくちゃ、ね」
  できばえを見て満足げに微笑む。と、だっと走って逃げ…ようとしてこけた。えぐえぐ起き上がって、とうもろこし畑に消えた。
  なお、どこをつつかれていたのかは秘密である。
  / * /
  翌朝、朝日が昇るとともに目が覚めたとうもろこし畑管理人、結城杏は、管理小屋から出て目にしたモノにぶっ倒れた。
  「な、なんで、ロジャー案山子がこんなところにあるだか!!しかも、なんでド派手!?」
  そのころ、王宮では、コンプリートで手に入れた認定証を眺めてご満悦なロジャーの姿が見られたという。
   
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