イベント/59/陣地構築/I=D/なし
イベント/59/陣地構築/I=D/なし
イラスト
SS・RP
人型をしたI=Dの汎用性は、こんなところでも遺憾なく発揮されていた。 穴掘りである。
「I=D使って穴掘りとは、ぜいたくなもんだよなあ」
そんなことを呟きながら、I=Dが手にした大円匙が地面へと突き刺さった。地面を掘り返し、人一人が軽々と入り込めそうな大穴が顔をのぞかせる。 各所でそれぞれのI=Dが彫り始めた穴が徐々につながり始め、複雑な塹壕が出来始めていた。
「馬鹿言え。穴掘るのにI=D惜しんで、それで死んだらどうすんだ。馬鹿いってないでさっさと掘れ」
軽口をたたくパイロットに注意しながら、指揮官は指示を出す。穴には次々と歩兵が入り込み、形を整えるとともに板で補強をし始めた。こういった細かい作業に、I=Dは使えない。
「りょーかい」
I=Dのコクピットからは、あちこちで土嚢を抱えて運んでいる歩兵の姿が見えた。働きアリを連想させる彼らを横目に、負けていられないと穴を掘り進める。 構築するのは塹壕だけではない。 近くの建造物を解体して持ってきた建材を利用して掩体壕を作り、運ばれてきた土嚢で機関銃座を幾つも幾つも用意する。 中にはI=Dが利用できるように巨大な塹壕も用意され、その労力は戦闘よりも多いのではないかと思えるほどだ。
「しっかしまあ、こういうのは役に立たない方がいいんだろうなあ……」 「それを言うなら、戦わないで済むならそれに越したことはない。それが無理だから戦う。戦うからには被害を少なくしたい。そのために穴を掘る。なら手を抜けない。当然の帰結だ。違うか?」 「そりゃそうだ」
そんな軽口をたたきながらも作業は進む。 各所ではコンクリートを固めた地面が用意され、地雷や鉄条網が設置され始める。
「ここまでするんだ、勝ちたいねえ」
パイロットが作業を続けながら呟いた。電波に乗ってその声が男へと届く。 個人回線を通じて響くその声に、笑みひとつ浮かべることなく男はこたえた。
「向こうも勝ちたがってるだろうよ。そもそも俺らが相手にされてるかどうかは怪しいけどな」 「確かにな」
二人は敵についての思いをはせた。 いまだ謎に包まれた根源種族。その実態も何もかも、分かってなどいない。 分かっているのは、彼らのばかばかしくなるほどの戦力と、こちらを虫けら扱いして歯牙にもかけないその性質くらいのものだ。
「なら、こういう人の地道な努力で、やつらに勝てるってことを証明してやりますか」 「だったら無駄口たたいてないで作業を進めるんだな」
そこくらいは乗ってくれてもいいだろう、と苦笑交じりの愚痴をこぼすパイロットを綺麗に黙殺して、男は指示に専念し始めた。 コクピットの中でだけやれやれとばかりに肩をすくめて、I=Dは穴掘りを再開する。
この大量の穴が、誰かの未来を守ることになることを信じて。
製作者:芥辺境藩国/小鳥遊(ワカ)
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