刊行物/神話集/子なる猫たち
刊行物/神話集/子なる猫たち
人が猫と袂を分かったとき、それでも猫を追ったものたちがあった。
「父よ、父よ、お見捨てくださいますな」
風のように闇を走る獣を追いながら彼らは、請いすがった。
「来るな、傲慢な人よ。もはや子ではないと言うたわ」
猫が吐き捨てるように言い、速度を上げようとするのへ、自らも四足になって駆けながらなおも懇願する。
「ならば、人の姿を捨てましょう。獣として生き、獣として死にましょう。それならばお傍にとどめおきくださるか」
猫は速度を落として、やがて立ち止まった。
「なれば」
頷くと、その人たちは見る間に猫に変わった。父なる猫は、大きく笑うと、子なる猫たちと今度は寄り添いながら走り始めた。
神話はここで終わっている。父なる猫とその子なる猫たちがどうなったかは知られていない。
しかし、この猫たちが、猫忍者の始祖となったのだと、隠れ里の口伝にはある。彼らが猫の姿と人の姿を自由に取り、むしろ猫の姿を好むと言われているのは、父なる猫と共に生きるためだと。
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