世界忍者国 - イベント/59/整備/整備士(芥)/なし Diff
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!イベント/59/整備/整備士(芥)/なし
!!イラスト
!!SS・RP
戦いは、続いている。
激しい戦闘による、I=Dの惨状は想像以上に酷かった。表面の装甲は磨耗し、元の機体の色が分からないほどに泥と枝葉にまみれている。
機体の各所は漏れ出た潤滑油で汚れ、各所の駆動部は明らかにおかしい、耳障りな音を響かせていた。
回路が焼ききれたのか、腕をだらりとぶら下げたまま動かない機体もある。中には、手動で回路をバイパスして、無理やりに動かしているらしい、動きの怪しい機体もあった。
いや、腕がくっついている分だけマシなのかもしれない。
中には、一体どんな衝撃を受けたのか、無骨ながらもバランスの取れたフォルムが今では捨てられる寸前の人形のような惨状と成り果てている機体もあった。
ここまで機体を帰還させただけでも、そのパイロットが凄腕だということが分かる。
想像以上の機体の惨状に呆けていた小鳥遊に対して檄が飛ぶ。
普段のへらへらとした響きが微塵の感じられない、ゲドーの声だった。
「小鳥遊君! ワイヤーで機体の固定! 急いで!!」
その声は呆然としていた小鳥遊の尻を蹴飛ばした。一瞬で我に返り、ゲドーが投げたワイヤーをとっさに受け止める。
何を考える暇もなく、小鳥遊はただ木材を組み合わせただけの簡素な足場を上り始めた。
整備を始めようとしたところで、機体が固定されていなければ話にならない。
誤作動はもちろん、断続的に地響きのような衝撃が起こっているとなれば、なおさらだった。
急造のため踏みしめる度にぐらぐらと不安定にゆれる足場に足を取られそうになりながら、それでも小鳥遊は必死に機体にワイヤーを取り付かせた。
そのまま、飛び降りるように足場を駆け下り、皮手袋をした両手で引っ張ってウィンチに取り付ける。
固定具が力強い響きをたててワイヤーを更に巻き取っていく。装甲に食い込むのではないかという力強さでもって、I=Dは固定された。
「I=Dの固定、おわ――」
終わりました、という必要すらなかった。
小鳥遊が固定を終え振り返ろうとしたその瞬間には、何人もの整備士が機体へと取り付いていたのだった。
普段は明るい笑顔で周囲を元気付ける双海環が、言葉をかけることもためらうような真剣さで、消耗部品の交換を行っている。
可愛いものが好きで、いつも柔らかく目を細めている海堂玲が、目を見開いて重くて無骨補修部品を運んでいる。
摂政であるはずの真道犀雅が、汗まみれで、泥まみれで、駆けずり回りながら端末をにらみつけて修理箇所のチェックと全体の指揮を執っている。
厳しい髭面をした吉備津 五十一は、瞳に強い光を宿らせて、神業じみた動きで破損箇所の修復に当たっている。
いつもへらへらとしていたゲドーが、抜き身の刀のような鋭い集中力を発しながら、燃料の補給を行っている。
誰もが、必死に作業をしていた。無駄口をたたく暇すら惜しいと告げるように。
整備の職務は、想像以上に過酷だ。
巨大な精密機械の固まりであるI=Dの整備には、重い、重い部品を運ぶ体力と、僅かな誤差も許されない繊細さを同時に要求される。
こういった戦時ともなれば、整備に割ける時間も限られる。
戦闘としては、ほとんどの人が注目もせず、気づかれもしないことすらある作業。
それでも、整備兵たちは全身全霊を込めて整備を続ける。
この作業が、ここにあるI=Dと、そのパイロット達の命を救うかもしれないのだということを、誰もが知っている。
この作業が、戦場全域の誰かを救うかもしれないのだということを、誰もが分かっている。
故に、誰もが全力。
小鳥遊は深く鋭く息を吐いた。それをスイッチとして頭を切り替える。無駄なことを考える余裕は、既にない。
全力で駆け出し、濡らしたタオルと飲料を駆け抜けるままに拾い上げる。
その勢いを殺さぬままに、足場を利用してコクピット付近まで駆け上がった。
機体を直すだけが整備ではない。パイロットに僅かでも休息を与えることも、整備兵の仕事である。
探す必要もないくらい体にしみこんだ手つきでハッチを開放する。
途端に吹き出すようなすえた臭い。汗と小便とが混ざり合った、酷い臭い。
そんなものに気をとられている暇などない。寸分も躊躇うことなく上体を入り込ませると、疲労困憊なのか、ようやく気づいたようなしぐさでゆったりとパイロットは顔を上げた。
「じっとしていてくださいッス」
何を言わせることもなく、手にしたタオルで汗を拭う。シャワーを浴びた後のようなというのも生ぬるいような、そんな汗。
すぐに体温にまで変化したタオルで汗を拭ってから、飲料を手渡す。
疲労困憊の上に脱水症状を起こしているのだろう。パイロットは戦闘時の動作を想像出来ないほどぐったりとした手つきでそれを手にとった。
雫一粒一粒をしみこませるかのようなゆっくりさで、のどを鳴らす。
「……機体は?」
掠れた声で、パイロットが呟いた。弱音でも文句でもなく、ただ未来のために今を走る、強い意志の目。
小鳥遊はうなずいた。
「どうにかするッス。だから今は休んで。……俺達を、信じてくださいッス」
今にも気を失いそうな朦朧とした顔で、それでもパイロットは口を引き上げた。
笑ったのだった。
「ああ、信じてる。……頼む」
その声に込められた信頼は、如何程のものか。
喜びも何もかもを想い、そして小鳥遊はうなずいた。喜ぶよりも先に、することがある。
小鳥遊は身を翻してコクピットを駆け下りた。まだまだ作業は残っている。
死なせるものか、と言葉にならない意思が走った。
製作者:芥辺境藩国/小鳥遊(ワカ)
!!イラスト
!!SS・RP
戦いは、続いている。
激しい戦闘による、I=Dの惨状は想像以上に酷かった。表面の装甲は磨耗し、元の機体の色が分からないほどに泥と枝葉にまみれている。
機体の各所は漏れ出た潤滑油で汚れ、各所の駆動部は明らかにおかしい、耳障りな音を響かせていた。
回路が焼ききれたのか、腕をだらりとぶら下げたまま動かない機体もある。中には、手動で回路をバイパスして、無理やりに動かしているらしい、動きの怪しい機体もあった。
いや、腕がくっついている分だけマシなのかもしれない。
中には、一体どんな衝撃を受けたのか、無骨ながらもバランスの取れたフォルムが今では捨てられる寸前の人形のような惨状と成り果てている機体もあった。
ここまで機体を帰還させただけでも、そのパイロットが凄腕だということが分かる。
想像以上の機体の惨状に呆けていた小鳥遊に対して檄が飛ぶ。
普段のへらへらとした響きが微塵の感じられない、ゲドーの声だった。
「小鳥遊君! ワイヤーで機体の固定! 急いで!!」
その声は呆然としていた小鳥遊の尻を蹴飛ばした。一瞬で我に返り、ゲドーが投げたワイヤーをとっさに受け止める。
何を考える暇もなく、小鳥遊はただ木材を組み合わせただけの簡素な足場を上り始めた。
整備を始めようとしたところで、機体が固定されていなければ話にならない。
誤作動はもちろん、断続的に地響きのような衝撃が起こっているとなれば、なおさらだった。
急造のため踏みしめる度にぐらぐらと不安定にゆれる足場に足を取られそうになりながら、それでも小鳥遊は必死に機体にワイヤーを取り付かせた。
そのまま、飛び降りるように足場を駆け下り、皮手袋をした両手で引っ張ってウィンチに取り付ける。
固定具が力強い響きをたててワイヤーを更に巻き取っていく。装甲に食い込むのではないかという力強さでもって、I=Dは固定された。
「I=Dの固定、おわ――」
終わりました、という必要すらなかった。
小鳥遊が固定を終え振り返ろうとしたその瞬間には、何人もの整備士が機体へと取り付いていたのだった。
普段は明るい笑顔で周囲を元気付ける双海環が、言葉をかけることもためらうような真剣さで、消耗部品の交換を行っている。
可愛いものが好きで、いつも柔らかく目を細めている海堂玲が、目を見開いて重くて無骨補修部品を運んでいる。
摂政であるはずの真道犀雅が、汗まみれで、泥まみれで、駆けずり回りながら端末をにらみつけて修理箇所のチェックと全体の指揮を執っている。
厳しい髭面をした吉備津 五十一は、瞳に強い光を宿らせて、神業じみた動きで破損箇所の修復に当たっている。
いつもへらへらとしていたゲドーが、抜き身の刀のような鋭い集中力を発しながら、燃料の補給を行っている。
誰もが、必死に作業をしていた。無駄口をたたく暇すら惜しいと告げるように。
整備の職務は、想像以上に過酷だ。
巨大な精密機械の固まりであるI=Dの整備には、重い、重い部品を運ぶ体力と、僅かな誤差も許されない繊細さを同時に要求される。
こういった戦時ともなれば、整備に割ける時間も限られる。
戦闘としては、ほとんどの人が注目もせず、気づかれもしないことすらある作業。
それでも、整備兵たちは全身全霊を込めて整備を続ける。
この作業が、ここにあるI=Dと、そのパイロット達の命を救うかもしれないのだということを、誰もが知っている。
この作業が、戦場全域の誰かを救うかもしれないのだということを、誰もが分かっている。
故に、誰もが全力。
小鳥遊は深く鋭く息を吐いた。それをスイッチとして頭を切り替える。無駄なことを考える余裕は、既にない。
全力で駆け出し、濡らしたタオルと飲料を駆け抜けるままに拾い上げる。
その勢いを殺さぬままに、足場を利用してコクピット付近まで駆け上がった。
機体を直すだけが整備ではない。パイロットに僅かでも休息を与えることも、整備兵の仕事である。
探す必要もないくらい体にしみこんだ手つきでハッチを開放する。
途端に吹き出すようなすえた臭い。汗と小便とが混ざり合った、酷い臭い。
そんなものに気をとられている暇などない。寸分も躊躇うことなく上体を入り込ませると、疲労困憊なのか、ようやく気づいたようなしぐさでゆったりとパイロットは顔を上げた。
「じっとしていてくださいッス」
何を言わせることもなく、手にしたタオルで汗を拭う。シャワーを浴びた後のようなというのも生ぬるいような、そんな汗。
すぐに体温にまで変化したタオルで汗を拭ってから、飲料を手渡す。
疲労困憊の上に脱水症状を起こしているのだろう。パイロットは戦闘時の動作を想像出来ないほどぐったりとした手つきでそれを手にとった。
雫一粒一粒をしみこませるかのようなゆっくりさで、のどを鳴らす。
「……機体は?」
掠れた声で、パイロットが呟いた。弱音でも文句でもなく、ただ未来のために今を走る、強い意志の目。
小鳥遊はうなずいた。
「どうにかするッス。だから今は休んで。……俺達を、信じてくださいッス」
今にも気を失いそうな朦朧とした顔で、それでもパイロットは口を引き上げた。
笑ったのだった。
「ああ、信じてる。……頼む」
その声に込められた信頼は、如何程のものか。
喜びも何もかもを想い、そして小鳥遊はうなずいた。喜ぶよりも先に、することがある。
小鳥遊は身を翻してコクピットを駆け下りた。まだまだ作業は残っている。
死なせるものか、と言葉にならない意思が走った。
製作者:芥辺境藩国/小鳥遊(ワカ)