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イベント/59/医療/マルチフィクサー/なし

イベント/59/医療/マルチフィクサー/なし

イラスト

SS・RP

――― 悲しくないわけなんかない。ただ、治療時に泣くのは、視界の確保に支障が出るから、堪えているのです。 ―――

 人々の怒声、悲鳴。響きわたる轟音。伝わる地響き。其処は戦場の一角、前線から少し離れ、負傷兵達が集っていた。 彼等は待っていた。迫り来る死の恐怖に耐えながら、その恐怖にくじけそうになる心を押さえつけながら。 待ち人達への絶大なる信頼と共に。  「来た!治療班だ!」 彼等の待ち人はマルチフィクサー率いる治療班。 国の誇る、最終最後の命の守人達。

「救護は心肺停止者を優先。直ちに蘇生、救命に移れ。」 治療班は負傷者にあふれた戦場にたどり着くと、直ちに救命に移った。 事前にその場に居た者たちから負傷者達の状況を聞き、 リーダーが次々に指示を飛ばしていく。 問題は、重傷者の後方への移送である。何時この場所が戦火に巻き込まれるかもわからない。 即座に治療が必要か、若しくは多少耐えられるか。それは治療に当たる個々の判断にゆだねられる。 リーダーにいちいちと判断を仰ぐ時間は、ない。

負傷者の一人。爆風により、細く鋭い木材が鋭利な刃物のように腹部に突き刺さっている。 何かが身体に刺さっているとき、大抵はそれをすぐには抜かないことが多い。 なぜならば、その物体が止血に作用しているからだ。 進入物を抜いたとたん、血が溢れ出て、失血性ショックに陥る場合がある。 しかし、彼らマルチフィクサーにとってはそんなことは問題ではなかった。 数瞬だけ目を閉じて精神集中し、かっと目を見開く。 それと同時に他のものの手によって抜かれる木材。抜かれるや否や、 彼らの手は神速の速さで患部へと伸び、侵入物の破片の除去、消毒、縫合までをも、 ものの数瞬でやってのける。出血はわずか。これが、彼らの努力の積み重ねの誇る技、 極限まで高めた集中力による神速の手技「神に至る手」。 マルチフィクサーのマルチフィクサーたる所以の一つである。  「これで、こいつ、助かったんですか?」 そばで息を呑む暇すら与えられなかった、負傷者の友人らしき兵士が我にかえり、尋ねる。  「応急処置はすませました。暫くは持つでしょう。ですが、 血が足りないと思うので後方に運んですぐに輸血を頼んでください。」 早くも次の負傷者の治療に移りながら、答える。  「なに、この戦場に私たちが居る限り、誰一人として死なせませんよ」 その声は力強く、口元には、見る者に希望を与える笑みをたたえていた。

作成者:世界忍者国/緋乃江戌人


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Last modified:2007/03/17 14:08:54
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References:[イベント/59] [刊行物/小説集]