イベント/59/医療/医師/テント内
イベント/59/医療/名医(紅葉国)/テント内
イラスト
製作者:結城玲音@紅葉国 |
SS・RP
痛みに悲鳴が上がる。 急げ、そこだ、と怒号が上がる。 前線とは異なる戦場が同時にもう一つ展開されていた。アイドレス『名医』を着た部隊による治療行為である。 負傷した戦闘員を収容し、傷を洗う。消毒を行い、止血し、必要なら縫合処置を行い、傷口を保護する。出血がひどい場合は輸血を行い、呼吸機能が低下していれば酸素ボンベを用意し、さらにメスや鉗子、手袋などの医療器具や包帯の用意と消毒――オートクレーブ装置などの用意は難しいから、アルコールと煮沸が手段として採用された――が行われていた。 幸い、戦場は世界忍者国である。森国人の住むかの土地は、真水を豊富にたたえていた。淡水化処理を飛ばして沸騰・冷却するだけで使用できた。 「にゃー!」 絶叫が上がった。テントの入り口付近で内部のどこに新しい患者を割り振るか考えていたなりたて名医のアルバート・ヴィンセント・ログマンが、思わずちらりとそちらの方を見やって、絶句する。 鮮血の池が、できていた。 ……しかしそこにいたのは、紅葉国の猫士二匹、である。その前にやはり血に染まったダンボール。若干傾いている。 「……落とされた、と」 うなだれる猫士。湯だと固まるので水で体を洗うように指示して、彼は他の名医たちにとりあえず、声をかけることにした。
「思ったより多く損害が出たわね」 む〜む〜が医療物資のリストアップされたオープンファイルを広げて、先刻落として使えなくなった輸血パックの量に眉をひそめる。そこに処置を終えた紅葉国医療部隊の一人、九夜が顔を見せた。 「3名、まだ輸血を必要としてる人がいます」 「残りあとできて5人ってところね。それ以上は代わりの手段を用意しないと――」 「む〜む〜様、九夜様! トリアージによるレッドタグが二名搬入されるそうです! 腹部損傷とのこと」 ログマンの声に、駆け寄りかけた高神喜一郎の顔が青ざめる。む〜む〜の眼が細まり、九夜は口に手を当てた。 「ほ、他の国に分けてもらうとか」 「無理ね。腹部損傷が二人で済むはずないでしょう」 「お湯で薄めるとか!」 「固まるにゃー! 凝固するにゃー!」 絶叫する面々。しかし、その中の単語にピン、ときたのがR 十三だった。頭の中の知識が、血流のようにざあ、っと一気に甦る。 「――塩! 塩、ありますよね。持ってきましたよね!?」 「ええ、慣れない水で下痢をした時のため、ORS用の砂糖もございます」 「生理食塩水!」 む〜む〜が続けて叫ぶ。 「特殊処置で輸血しないで生理食塩水で代えた例があったはずよ」 「湯冷まし用意! 少なくとも3分以上沸騰させてるやつの上澄みだ!」 「貧血になるんじゃありませんか」 「失血によるショック症状への対処が先です! 余裕があったら鉄剤混ぜて!」 「紅葉国の塩はミネラル多いですよ!」 匙と定量の容器を熱湯で消毒し、片っ端から塩と湯を加えていく。ずぶぬれになっていた猫士が、率先して動き出した。 紅葉国のテントに、そして世界忍者国の森に、再び名医たちの活気ある声が響きはじめたのだった。
製作者:春賀@紅葉国 |
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