刊行物/神話集/母なる猿と父なる猫
刊行物/神話集/母なる猿と父なる猫
それはまだ、この国がただ「くに」と呼ばれていた時代、その昔に伝わる古い物語。
かつて地と空が分かれたばかりの頃、森と地ははっきりとはわかれておらず、獣たちは混じり合って住んでいた。昼の獣を統べていたのは白銀の長い毛をした巨大な猿、一方夜の獣を統べていたのは漆黒の滑らかな毛皮の巨大な猫であった。
森の中は薄暗く、昼と夜がわかれていない場所があったため、あるときこの二匹の獣はばったり出会った。そして、お互いにお互いのその見事な毛皮に感心し、立ち止まって見詰め合った。
「白銀に輝く毛皮の主よ、そなたの名を教えてはくれまいか」
最初に口を開いたのは猫だったという。
「闇の中で黄金に輝く瞳を持つ獣よ。我が名を問うならば、まずは名乗るのが礼儀と言うものでしょう」
誇り高い猿はあごをそびやかして、声をかけられた喜びを押し隠した。
「これはしたり、誇り高き獣よ。我が名は、ル・ヴェラ・ミアング・エラト(闇を駆ける漆黒の脚)。これでよかろうか」
猿は鷹揚に頷くと応えた。
「良いでしょう、美しき名を持つ獣よ。我が名は、バル・ヴァネラ・ミルング・エフォル(森を渡る白銀の腕)」
かくして名の交換は行われ、二匹の獣は夫婦となった。この二匹から生まれたのが、「人」である。人は、この二匹を尊敬を篭めて「母なる猿」と「父なる猫」と呼んだ。
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