「ひ、非常口ってどこですか?」
エドは、マップを握り締め、観光地のど真ん中で涙目になっていた。次のロイ像は、忍者屋敷裏手非常口そばにあるらしい。忍者屋敷と言っても実は複数個ある。裏口を覗いたりしてもロイ像を発見できなかったエドは頭を抱えた。前に回って看板を確認してみる。
「えっとえっと、忍者屋敷・ホラーコース…あれ、ここ違う!?」
2つ目の忍者屋敷で途方に暮れたエドは、仕方ないので人に道を聞くことにした。ちょうど一人の小柄な女性が、忍者屋敷・ホラーコースの出口から出てくるところであった。
「あ、あの、すみません!」
真知子巻き(※注1)でサングラス、下はボーイッシュな半袖シャツに短パンといういでたちのその女性は、エドの呼びかけに怪訝そうに首をかしげた。
「その、ロイ像を探していて…この忍者屋敷というのがここだと思ったのですが、違ったみたいで…えとえと」
女性はおたおたしているエドの手元のマップを覗き込むと、ああと呟いた。
「それなら、あそこだね」
木々の隙間から覗く瓦屋根を指差し、答えたその声は女性としては幾分低かった。野太くはないが、そう声変わりが始まったか始まらないくらいの少年の声…少年? あっとエドはその女性が少年であることに気がついた。サングラスをかけたその顔があまりに整いすぎていて女性に見誤ってしまっていたのだった。
「あ、う…ありがとうございます!」
誤解していたことにうろたえて、思わず上ずった声をあげてしまったエドに、その女性−−少年はふん、と冷笑を投げかけた。
「こんなとこでどうやったら迷えるんだろうね」
え、え、と目が点になるエド。とほほと情けないのは確かだが、そういう口調にはちょっと懐かしいものを感じる。
「しかたないな。天才のこの僕が一緒に探してやろう」
えっへん、と胸を張る少年。よくよく見ると女性にしては確かに胸がなさすぎる…というのは置いておいて、エドはわたわたと慌てた。
「あ、その。お申し出はとても嬉しいんですが…あの、実は願掛けの途中でして。ひとりで回らないといけないんです」
「ふうん? こんなところで迷ってるのに?」
「う。うう…」
エドが凹んでいるのを見て、少年は口をへの字にした。
「まあ、それじゃ仕方ないな。せいぜい頑張ってくれたまえ」
少年は肩をすくめるとあっさりとそう言って立ち去った。残されたエドはしばらく呆然としたが、ぱちんと頬を打って気合を入れた。
「ソーニャさんのために頑張らないと!」
えいえいおー、握りこぶしを上げる。心機一転教えられた忍者屋敷を目指すエドを、見送る影があった。
注1:真知子巻きとは、首から頭にかけてショールを巻くスタイルの一種のこと。「真知子」はラジオドラマ『君の名は』のヒロイン名に由来している。
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(つづく)