何度も道に迷いながら、それでもエドはあきらめなかった。
「今日で三日目…ランクBまでなんとか終わりました!」
しかし、残りはランクS。ランクSって一体どんなものなんですか?と聞いたエドに、桂林怜夜団長は遠い目をした。
「悪いことは言わないから、ランクSにはひとりで行かないでね?」
「え、なぜですか?」
「ランクSロイ像は、避難経路というよりは、迷宮のセーブポイントだから…」
「迷宮!?」
「中級者コースがB〜A、上級者コースがA〜Sになってるねう」
ロビーでお茶を飲んでいた藩王が何故か楽しそうにコメントしていた。
「Aコースすごかったなぁ…」
会話を聞いた久堂尋軌摂政が遠い目をして呟く。
「当時私は新米でねぇ〜ギアナ高地も真っ青の壁を登り…「ぶっちゃけ、ありえなーい!!」って叫んだものです(ぇ」
「ああ、Aだと崖の途中とかにあったりするよねー」
と藩王。エドは目を白黒させた。
「だ…誰がそんなところに設置…(設置したひとも怖かっただろうなぁ…)」
「最悪落ち延びた場合の避難経路だからねぇ…崖の途中の高台とかに横穴掘って設置してある」
お茶を飲み干す藩王、に摂政が甲斐甲斐しくお茶を注ぐ。
「全部クリアすると自然と忍者の能力が身に着くのですよ」
「たまに迷子になって遭難するやつがいるけどな」
「うう…」
苦虫を噛み潰したような顔をする桂林怜夜団長をひゃひゃひゃとからかう藩王。
「設置には猫忍者を総動員してね…まあ、それよりあの迷宮の方が(遠い目)」
「まぁ、迷宮なんてよほどでないと行きませんけどねぇ…」
黙り込むエドの周りで、話は他の方向へ流れて言った。
そんな会話を思い返し、目の前の洞窟を覗き込み、くらくらと貧血を起こしそうになる。
「ずいぶん前に羅幻王国の方から地下迷宮をくぐって敵が攻めてくるという話があってね。そいつの出口が困ったことに観光地にあるっていうから、警報機能やら結界機能やらのついたロイ像をいくつか洞窟内部に設置したらしいよ。ランクSロイ像ってのはそいつらのことだね」
ランクSのある場所を尋ねるエドに、土産物屋のおじさんがそう説明してくれた。
「悪いことは言わないから行かないほうがいいよ。外までは出てこないけど中では化け物も出てくると言うよ」
「うう、でも行かないといけないんです…」
「なにか事情があるんだね…でも無理はしないで、危なそうだったら逃げたほうがいいよ。ほら、これをあげるよ」
おじさんが心配そうにお守りを渡してくれた。
「あ、ありがとうございます!」
そのお守りを大事に胸に抱くと、エドは深々と頭を下げた。人の情けが身に染みる。
「あまりご利益はないかもしれないけどね…本当に気をつけてね」
「はい!」
そのまま立ち去ったエドは、彼女を追うように立ち上がった真知子巻きの少年と、それに頷きかける土産物屋のおやじの様子には気がつかなかった。
そして、再び回想から戻って、もらったお守りを握り締める。
(行かなくちゃ。ソーニャさんのために!)
ひとつ武者震いをして洞窟へと足を踏み入れたのだった。
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(つづく)