その後の探索はしかし、力が抜けるほどあっけなかった。何度か迷ったので時間はかかったが、残り3つのロイ像を見つけ出すことが出来た。
ただ、不思議なことに、真新しい血痕や戦闘の痕がところどころにあった。また、まれにそう遠くないところで、激しい音と悲鳴がすることもあった。そのたびに身をすくめ、近くの岩陰に隠れて音が止むのを待ったりもした。しかし、エド自身はそうした音の原因に出くわすことはなかった。
(お守りのおかげかしら)
エドは首からかけたお守りをそっとまた握り締めた。土産物屋のおじさんにはまたお礼を言っておかなくちゃ…、そう思いながらエドは洞窟を後にした。出る瞬間、また悲鳴を聞いた気がしたが、外の木々をわたる風の音かも知れなかった。
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エドが洞窟の前の道を下り姿を消した後、ひょっこりと洞窟から姿を現したのは、真知子巻きの少年であった。手には不釣合いな大きさの刀を下げ、その刃には先ほどエドを背後から襲おうとしたゴブリンの血糊がべっとりとついていた。手にした受信機を眺め、発信源−−お守りが徐々に遠ざかっていっているのを確認する。
ふん、と小ばかにしたように鼻を鳴らすと、布を半ズボンのポケットから取り出して刀を拭った。鞘に収め、背中にからう。
ぱちぱちぱち、とその背に拍手が投げかけられ、はっと少年は振り返った。
「やあ、案外やるじゃないか。女の子のナイトかい?」
背の高い、ちょっと砕けた感じの青年が気にもたれかかってにやにやしていた。垂れ目で端正な顔立ちをしている。
「あんたには関係ない」
むっと顔をしかめる少年の様子に、青年の笑みが深まる。
「つれないねぇ。観光に来てみればいつの間にかいなくなるから、心配してたんだぞ?」
「単独行動については謝る。用事は終わったから帰る。心配するようなことはなかった」
「それで、キスくらいはした?」
パンチが飛ぶ。おーこわこわと青年はひらひらと避けた。
「そんなんじゃない! ただ…ただ、ちょっと気まぐれで手伝っただけだ」
「姿も現さずに、ね。青春だねぇ」
「…!」
はっはっはと笑う青年と、それを殴ろうと追い掛け回す少年。ひとしきりじゃれた後、青年はふっと優しい目をした。
「名前くらい言っておいたらよかったんじゃないか?」
「…いいんだ。多分二度と会うこともないだろうから」
遠い目をする少年に、そうか、と青年は呟くとそれ以上は何も言わなかった。
最後、洞窟の前を去ろうと言う時に、少年はもう一度だけ振り返った。少女が下っていった道を遠く見やり、そっと手を振る。そして、後は振り返らずに仲間たちの所へ戻っていった。
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エドが土産物屋のところまで戻っておやじにお守りの礼を言うと、実は…とおやじが話し出した。
「いや、実はあのお守りは、とあるお客さんが渡してくれと頼んだものだったんですよ」
「え、え?」
明かされる事実に戸惑うエド。
「えっと、そのお客さんと言うのは?」
「初めて見るお客さんで、名前も知らないんですけどね。こう、ショールを頭から肩にこう、巻いた、一瞬女性かと見まがう美少年でしたねぇ。あ、目はサングラスで見えなかったんですけどね」
あの人だ…あの、忍者屋敷の前であった、どこか懐かしい少年。エドは改めて、お守りを見てみた。黄色と青の布地に黒猫の刺繍…そして数字が縫い取ってある。
「5121…」
エドは呆然としながらその数字を読み上げるのだった。
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(つづく)