温泉…それは人々の疲れを癒すものであり、温泉の清潔なお湯を飲むことで健康になれると古来から言われている。
これは夏の日差しが激しく、さすがの森国においても風通しの悪いところではかなりの体力の消耗が強いられる、そんなある日の出来事を記したものであった。
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「あつーい、団長〜この暑さ何とかならないかな〜。」
藩王の結城由羅は、隣で仕事をしてる桂林怜夜に対して持っていた扇子を扇ぎながら愚痴を溢していた。
世界忍者国ではエアコンという文明の利器は存在せず、扇風機すらもあるかと聞かれれば「どうなんだろ?」と逆に聞かれるくらいの独特の藩国である。
「何言ってるんですか。はんおーさまなんですから、もう少しシャキっと仕事してください。シャキっと」
「え〜、だって暑いんだもーん。」
あまりの暑さにやる気が完全に折れたのか、由羅は藩王の椅子から立ち上がると傍に茶会用に存在している4畳半の畳にごろ寝して
「あついー。そういえば、こういうときの摂政の二人はどうしてるんだっけ?」
困ったときの摂政頼みである。藩王アイドレスを所持していればモデル間違いない位の藩王の由羅であった。
「濃紺さんは神崎さんと一緒に忍者用のI=Dの研究。尋軌さんは大神さんと一緒に人狼領地に行きましたよ。」
由羅に渡すべき書類を机の上に置きながら、怜夜の補佐をしていたエドが答えた。
「そ れ だ ! ひろきしゃんと狼の様子を見に行くついでに、向こうで仕事するんで。支度して支度!」
人狼領地。それは世界忍者国の一部であり、かつて帝國の藩国であった”北国”エリアを指す。夏の灼熱とは反対の雪国であった。
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「いやー、久しぶりにこっち来たけど雪降ってるとは思わなかったー。」
仕事をするにあたって、人狼領地の責任者である大神の執務室を勝手に占拠すると仕事を怜夜・エドの二人に(勝手に)任せて由羅は人狼領地を巡察という名目の散歩をしていた。
「こういうときに飲む日本酒は最高なんだよねー。そうだ、仕事終わったら…くろじゃーさまを誘って…(ドスン!)…って何?」
辺りを見渡しつつも、想像を膨らませていると顔が自然と赤くなる。藩王なれど乙女であった。
そんな幸せな想像に浸っていたのも束の間、大きなドスンという音によって現実へと引き戻される。
「ドスンって、やけに大きい音してたけど何かヤバい事でもあったかな?」
妄想に浸っていた顔は、藩王という責任を持った顔へと瞬時に戻って雪の中を忍者装束で走り始める。すると、音の発生源であるであろう大きなプレハブの前へとたどり着き。
「ここかぁ・・・って、なんだろ、これ・・・??」
不審に思ってプレハブの中に入ろうとした瞬間、由羅のことを引き止める声が横から聞こえてきた。
「わーい、おねーちゃーん!」
「あれ、藩王さまじゃないですか。どうしたんです?仕事はどうしたんですか?」
「へ?」
由羅は、自分を呼び止めた二人の人物の正体がわかるまで数秒かかった。なぜならば、その二人の服装は『黄色い作業用ヘルメット、ニッカポッカ、安全靴(なぜか口の回りに髭のメイク付)』と一見、どう見てもドカタの人であった。
しかし、二人は副王の大神重信と摂政の久堂尋軌の国を支えている人物であった。こんな格好をしていたとしても…
「ぷ…、二人して何その格好…いや、似合うんだけどさ・・・ぷぷ」
藩王として、仮にも部下二人に対して笑うのは失礼に当たるが、さすがに笑いを堪えるので精一杯のようだ。
「……いや、まぁいいんですけどね。何を思ったかは大体の予想はできますが…、とりあえず何でココにいるのか説明いただけます?」
「おねーちゃーん、雪国温泉できあがるよー。もうちょっとでー」
「あ…、あれかー」
二人から話しかけられて、由羅は記憶の端にあった書類のことを思い出した。
=雪国温泉計画=
森国にある世界忍者温泉は、大衆向けの温泉街となって広く伝わっている。さらに、それを発展させるための売りのひとつとして、北国にも温泉を引き自然の美しさと観光を楽しめる雪国温泉として、大観光地の宣伝ポイントを広めようとするものであった。
なお、森国の温泉宿も自然破壊が行われない程度に拡張をして、雇用とサービスの向上をもくろんでいる。
工兵用のI=Dを持ち出し、雪をかき集めたりして温泉を楽しめる場所をつくる。それが二人の役割であった。
ちなみに、二人そろって今回はただの人アイドレスを着用している為に、臨時雇用として建設業者を雇って作業を行っている。
「状況的には、環境破壊なしでよい温泉宿ができそうです。一応、離れとして要人用の個人温泉も用意しました。」
「ひろきん、真面目すぎー。おねーちゃーん、拠点防衛用に対戦車ライフルつけようーよー」
「まて駄犬(ゲシゲシ)」
まるでトリオのコントのようなことを話しつつも、プレハブの中では作業は進んでいる。温泉宿が出来上がったら多くの人が人狼領地に足を運ぶであろう。なにせ、共和国において北国を楽しめるのは唯一世界忍者国だけなのだから。
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