みくし日記より転記。
※※※
「あああっつぅ」
藩王結城由羅は、執務室でだらしなく足を投げ出してだれていた。
「はしたないですよ」
ちょうど、差し入れの麦茶を運んできた、桂林怜夜がそれをたしなめる。
「暑いんだもんよ〜」
「第一世界ほどじゃないでしょう」
「まあねぇ。でも、こっちはクーラーないからさぁ」
「健康的ですよ」
温暖な気候の世界忍者国は、緩やかな四季を持つ。
冬には地面にうっすらと雪が降り、夏には入道雲に蝉の声が響く。
気温は高いが湿度はあまり高くないので、不快指数的にはそれほどでもない。
「夏だねぇ」
由羅はおとなしく座り直すと、手渡された麦茶をすすった。
冷たくて、うまい。
なんやかやとありつつも、それなりに日常は進んでいく。
「…ということで、お中元贈るからよろしく」
「…唐突ですね」
「いやー、今ちょうどあがってきた企画書見てたとこでさ」
ひらひらと紙を見せる。
そこには「2011年お中元大作戦!」というボールド20pt文字で書かれたタイトルと、摂政印が押されていた。
「ああ、尋軌摂政の企画ですか」
「ういうい、今年もいつもお世話になってる方々向けにやるよ〜
ってことで、なんかアイデアあったらよろしくー」
「夏らしく、すいか割りとか、流しそうめんとかもいいかもですね」
「こないだはそうめんやったっけ?
もう覚えてないなぁ…」
ポリポリと頭をかきつつ、遠く目を細めて、窓の外を見やる。
城下町の街並みと、遠くに広がるトウモロコシ畑。
何年も、この世界では何十年もの間、この窓から見渡してきた風景。
いつまでも続くわけがないことは知っていた。
むしろ、よく長く続いてきたというものだろう。
「世界の終わり、か」
ぽつりと呟く。
え?っと聞き返してくる怜夜に、なんでもないと首を振ると、由羅は次の書類を手に取った。
「お盆祭り企画書、と…これもやらんとな。8月4日のロイ祭りと合同でやるか…」
ぶつぶつと呟きながら頭をひねる。
「…がんばってください」
「ういー」
怜夜が出て行きつつ激励の言葉を残していったのへ頷きつつ、机の上の書類の山にため息をついた。