イベント/09/その頃の首脳陣
その頃の首脳陣
女王の執務室。ここでは女王様こと結城由羅藩王、しっかり摂政ことみはえる、うっかり摂政こと凍矢、の三名が珍しくしかめっ面で、真面目に会議をしていた。
「戦時動員よ」
藩王はつまらなさそうに、本国からの電信を二人の摂政に見せた。
「資金10億にゃんにゃんに、燃料10万トン、ですか…」
「うわあ、取られますねぇ」
浮かない顔をする二人に頷きかけて、言葉を継ぐ藩王。
「すでに提出はしておいたわ」
「おお、我が国は資金も燃料も出せるのですな。中小国家なのに運営体制が素晴らしい」
満足げの声を上げるみはえる摂政に、藩王はちらりと微笑んだ。
「そうね、よその藩国では払えないところも多いと聞くわ。こまめに稼いでいておいて良かったってことね」
「まあ、女王様がわざわざ出撃されましたからね」
それぐらいはないと、と凍矢摂政が渋い顔をする。国が潰れる、と反対したことは後悔してはいない。
「しかし、この動員で再び資産状況が悪くなりました」
電卓でぱちぽ、と押して、むう、と更に渋い顔になる。
「資金は残り4億、燃料は残り8万トン、娯楽は残り6万トンです。何かで稼がないと心細いですねぇ」
「また貧乏国に戻るなんて…しくしく。お金ー!」
三人でいっせいに盛大なため息をつく。この国は一時期借金国になって苦しんだことがあるため、お金が減るのが特に堪えるらしい。
「当面は売れるもの作って売るしかないですよねー」
「皆がんばっているようですし、大丈夫でしょう」
空元気を出してみはえる摂政が言った。
「ええ、特別プロジェクトとして、月代広報担当による娯楽作品作成も動いているしね。あれが完成して売れれば…」
藩王が頷き、三人は取らぬ狸の皮算用を始めた。
/ * /
がちゃ
そんなところに、扉が開き、戌人騎士が入ってきた。その手には、ケーキ、を持っている。 ほほう、と藩王がそれに目を留めて微笑んだ。
「あ、……無事成功したのね」
しかし、同時にその物体を認識した凍矢摂政は、ものすごい悲鳴をあげた。
「ケーキは嫌けーきは嫌、ひ、ひぃぃぃぃぃぃぃいいいい!!」
壁に張り付き、がくがく震える凍矢摂政。戌人騎士は目を白黒させつつ、用件を述べた。
「あの、これを戦時に食料の一部にしたいんですが………」
苦笑いする女王。そんな周りの情景を尻目に、みはえる摂政はとりあえず毒見をする。
「ふむ、悪くは無いな。うん、これは十分食料足りえる」
みはえる摂政が頷くと、戌人騎士はぱぁっと顔を明るくした。
「……あ、ありがとうございます!」
そして、藩王が手を出そうとしてるその下から、さっとケーキを救い出す。
「私も食べるーっ!…て、何で下げちゃうのー?」
目の前で撤退していくケーキを前に、少し涙目になる藩王。みはえるは無言で戌人騎士にそのまま去るよう指示する。執務室をそそくさと去っていく戌人騎士を恨めしげに見ながら、藩王は口を尖らせた。
「酷い! 私も食べたかったのに!」
「今は仕事中です。終わってからにしてください。それに……凍矢摂政があまりに不憫で…」
と、顔を壁へ向けた。
「ケーキは行った?ケーキは消えた?」
そこで涙目でがくがくぶるぶると震えている凍矢摂政を見て、藩王はなるほど、と頷いた。 (注:ケーキ恐怖症の理由についてはイベント/05/その3をご覧ください)
/ * /
ケーキが去ったことを確認し、よろよろと立ち上がる凍夜摂政。こほん、と咳払いすると、書類をめくって、取り繕った。
「ええ、もう大丈夫です、では次の議題ですが」
ピピピピピピピ
そこへ今度は、何かの電子音が聞こえてきた。凍矢摂政が目の色を変える。
「はっ、国営のロジャーのアニメが始まる時間だ!」
藩王が、ぽむ、と手を叩き、みはえる摂政に上目遣いをしかける。
「ねー、摂政ー見に行っちゃ、駄目?(うるうる」
「行きましょう!」
凍矢摂政が今にも駆け出さんばかりの様子で叫ぶ。
「駄目に決まってるでしょう!!!!」
あっさりみはえるに却下される二人。しゅん、としつつ、なんとか説得しようとする凍矢摂政。
「だ…だってこの国の国営ですよ? 俺たちにはチェックする義務がありますよ!」
「仕事があるのですから、あとで見ればいいでしょ。国営なので、元を取り寄せることもできます」
「「で、でもやっぱり、早く見たいじゃない/よ」」
異口同音にかき口説く、藩王とうっかり摂政。それをぎろり、と睨みつけてしっかり摂政は一喝した。
「いいから仕事!」
「「うー、はい」」
結局、頭の上がらない二人である。しぶしぶとあきらめかけた、丁度その時、
ドン!
勢いよく扉が開いた。
何事かと三人がそちらをみると、真っ青になった白銀副団長が、肩で息をしながら入ってきた。
「た……大変です!団長が……玲夜団長がまた迷子に!」
瞬間、目が輝く女王と凍矢。
「探しに行こう!」
「我らが団長のピンチだしね!」
ドアから飛び出そうとした瞬間、二人して思いっきり後ろに引っ張られた。
「ああ、では副団長、すまないが一部の騎士を率いて捜索に出てくれないかな?」
二人の首根っこを両手で掴みながら、さわやかな笑顔で言うみはえる。 苦笑いしながら、でも少しうれしそうに頷くと、白銀副隊長は走り始めた。
「さて、二人とも仕事の続きですよ?」
その笑顔が……怖い。
「「は・・・・・ハイ(しょぼ〜ん」」
そして、首根っこつかまれたまま、引きずられていく二人。バターン、と扉が閉められた。 会議は、まだ続くのだった。
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