藩王結城由羅の一言から始まった警察署の改築は、一挙に国民の注目を浴びることになった。
「えっと…取材ですか?摂政みずから?」
警察署長である黒にして真珠のロイ・バウマンに取材の申し込みがあったのは警察署の改築が9割ほど終わったころであった。数人のスタッフとともに申し込みに来た久堂尋軌が署長に名刺を差し出して。
「あ、今日の私の肩書は摂政じゃなくてプロデューサーなんですよ。久堂Pとでも呼んでください」
「はぁ…えっと、取材の媒体は雑誌か何かですか?」
「えぇ、雑誌とてーべーになります。あ、取材に関してはこの女の子が行いますので質問にお答えいただければと思います。これでも、アイドル候補生なので好きに弄ってもらっても構わないので」
そう笑っているプロデューサーの言葉に頬を膨らませながらも、リポーターの女の子は取材用の資料に目を通しながらスタンバイを始めていく。
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インタビューが始まって8割ほど消化したころ。
「それじゃ、この度の改築で更なる安全を国民のみなさんへということですね?」
「えぇ、藩王のご厚意ということで制服まで新しくしていただけましたし、更にパトカーと白バイも増やしていただきました。感謝しきれないくらいです」
「しかも、個人的にはその腰にさした鉄扇までプレゼントしていただいたとか」
「もうしわけありませんが、そこはプライベートということで勘弁してください。」
苦笑しながら署長は答えると、真新しい柱に取り付けられた時計を見るとプロデューサーである久堂にちら見して終了を促した。
久堂はリポーターに合図を送ると、リポーターは〆の質問のページを捲って。
「それでは最後になりますが、国民の皆さんへのコメントをお願いいたします。」
「国民の皆さん、困った時は相談に来てください。できるかぎりのことをさせていただきますので」
「本日はありがとうございました。今回は警察署長黒にして真珠のロイ・バウマンさんにお話を御伺いたしました。では、また次回」
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カーットの声と共に緊張が解けると、スタッフは挨拶とともに撤収の準備を始めて。
「お疲れさまでした。突然の取材だったのに随分と落ち着いてらしたですね。さすがです」
「なに、流石に藩王さまが見ているのに格好悪いところみせられないですからね」
「そうですね。編集が終わり次第、藩王さまに見ていただきます」
「おや?もしかして気づいていなかったのですか?藩王さま、ずっと見てましたよ?カメラマンになって…」
「へ?藩王さまはこの時間は執務のはず…ただでさえ溜まってるのに…」
署長の言葉にキッと久堂はカメラマンをみると、視線の先で片づけをしていたカメラマンは立ちあがって二人を見て。
「はっはっは、摂政もまだまだ甘いねう。しかし、この変装がわかるとは、さすが署長!」
そう言いながらカメラマンが自分の顎に指をかけると、ペリペリという音とともに樹脂でできたマスクが剥がれて藩王の顔が現れる。
「それでは、失礼して仕事に戻るねう。ひろきしゃんは片づけよろしくー。ではでは(どろん)」
正体を現したかと思えば、署長に投げキッスをして摂政に後のことを頼むと煙玉を床に叩きつけ、もくもくと立ち上る煙の中姿を翻す。
その様子をくくっ…と笑いつつ、警察署長はこの国を守ることを改めて思うのだった。