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優羽玄乃丈と優羽カヲリの結婚式は世界忍者藩国をあげて大々的に行われた。藩国の食料庫から振る舞い酒までで花見も兼ねて国民総手での大騒ぎである。
御祝い兼花見会場で盛り上がっている中を、警備責任者に任命されたくぅは彼方此方で屋台で買い食いをしていた。
「ん…美味しい…あ、おじさーん。この美味しそうなたこ焼きもおねがーい」
警備をしに来たのか買い食いをしに来たのか判らないまでに、両手を屋台の食べ物でいっぱいにしながら人の波を抜けていく。
「はぁ〜しかし、どこに行ったんだ?あの狼…まったく、総責任者だろうに…」
口の中が空になると、買ったばかりのたこ焼きをほおばりながら思い出すように何度もため息をついていく。もちろん、食べている時はため息などでないのだが。
彼女はある人物を探していた。副王(仮)の大神重信その人である。藩王より今回の警備を受け持った総責任者。なのに、いつのまにか警備用のテントを抜け出して行方不明になっているのだ。さすがに”あの”副王を制御するとなると人選は限られてしまい、余裕ができていた彼女が捜索に選ばれたのである。
「とりあえずは買い食いできるからいいけど…さすがにとっちめないとわからないかな…もう。って…あの声は…」
残りが更に途中で買ったクリーム薄皮鯛焼きのみになったところで、聞いたことがある声を耳にしてくぅは声の元へと近づいていく。
「いた〜〜!この狼!飲んだくれてないで、さっさと仕事にもどらんか〜〜!!」
「ん…あ、くぅか。くぅも飲む?これ、このおっちゃんにもらったー!」
そう言いながら真っ赤な顔をした大神は、くぅに一升瓶を差し出して更に空いている手で隣で座っていた男性の肩を親しげに叩いた。
「えーい、もらうのはいいが仕事終わってからにしろやーーー!って、狼の相手してるなんて…なんて不幸なっ…げげぇっ!」
大神が親しげに酒を酌み交わしていた人物を見て、くぅは驚愕した。何せ、警備テントを出かける前に渡された写真の人そのままだったのだから。【スマートな親父スタイル】で傍目は【チョイ悪】風。久堂摂政あたりがみれば『モ●ッコの●』とかマニアックに言いかねないイカした中年男性。
「え、えええっ!も、もしかして…アルファシステムの佐々木哲哉様でしょうか…」
酔っている大神を無理やりどかせながら、さすがに恐る恐ると聞いてみると男性は笑みをみせながら
「えぇ、そのとおりですが…よくわかりましたね。」
「藩王より連絡が来ておりましたので。この度はこの狼がご無礼を働いてしまい申し訳ありません!」
「いえいえ、彼とは気分よく飲めましたよ。気にしないでください。」
「は、はい!ありがとうございます。よろしければ、藩王に会っていただけませんでしょうか?私がご案内させていただきますので…」
「まぁ、今日は御祝いの席ですし固いことは言いっこなしで。そのうちに会う機会もあるでしょうから…」
そう微笑みながら社長は大神によって注がれた日本酒を飲みつつ答えると、笑ってみせて。
「とりあえずは、彼をもう少しおかりしますね。もう少しこの国のこととか教えても欲しいので」
「は、はい!好きに使っていただいて結構です!それでは、私は報告に行かなければいけないので失礼します!」
「おねえちゃんによろー」
くぅが影で握りこぶしを握りしめつつもその場から離れると、二人は今度は花を楽しむように言葉少なく飲み始めた。
「…社長…、ミチコさんこっちに引き込めないっすかね?」
「ぶっ!い、いきなり凄いこというな…って…」
花を見あげつつも大神の突然の発言に、佐々木は思わず飲みかけだった酒を噴いて大神の顔をみると、佐々木は「ほぅ」と小さな声で呟きながら大神の変化に気がついた。
長年の知り合いな結城や濃紺がその顔つきを見れば、きっと驚愕するに違いない。顔は酒で赤く酔ってはいたが、真剣な眼差しで佐々木のことを見ているのだ。まさしくそこにいるのは、世界忍者国の副王であり、人の上に立つことを経験した漢の顔だった。
「わかった…なんとかチャレンジしてみよう。期待はしないでくれ?それに…君にその顔は似合わんよ」
苦笑しつつも、返事を返せば凛々しくしていた大神の目は再びトロンとなって嬉しそうに。
「んじゃ、社長!そういうことでよろー!」
そうして二人は花の下で再び酒を飲み始めていくのだった…。