「どうしてこうなった…」
彼の名前は神崎零。今回の小話の主役である。
彼は、控室で頭を抱えていた。控室といっても、大きなテントの一部を布で区切った一部であるのだが…
「たしか、俺は小姐さんと一緒に国内での配布を手伝うように…そのはずだったのに」
彼の呟いたように、本来ならば彼は桂林怜夜たちと共に国内の配布に参加する予定だったのだが、今いる場所は世界忍者国ではない。
現在の彼がいる場所は、キノウツン国の国境そば。そこでは大きなテントをいくつも並べて縁日と言わんばかりの雰囲気になっていった。
「人狼傭兵たちに忍者刀を配布したいから予算ちょうだーい、おねーちゃーん。」
元人狼傭兵頭の大神重信が藩王である結城由羅に申請を出してからかなりの月日が経っていた。様々な問題があったが、時間を経て配布できる状態になった。
しかし、人狼傭兵は現在キノウツンに滞在している。ここにおいて、キノウツン国内での配布活動を行うのは問題になると考えた摂政濃紺は、キノウツンの国境をでた直ぐの場所にテントに巨大なテントをいくつも張って『人狼傭兵への慰労イベント』ということで忍者刀の配布を行うことにしたのであった。
テキヤによる人狼領地食品の屋台や、人狼領地出身アイドルによるライブが行われている。ちなみに忍者刀の配布は、このイベント会場の入口において受付し帰るときに忍者刀と引き換えということにしている。
そんな中で、大きなステージ上では現在アイドルのライブが行われクライマックスを迎えていた。
「なぜだ…なぜ俺がこんな格好で…うぉぉぉ〜」
彼は国内方面のヘリに乗る途中でイキナリ意識を失った。目が覚めたときには既にこの服を着て控室で寝ていたのだ。しかも、妙に尻のあたりが痛い。まるで、何か注射されたかのように…
神崎は立ち上がり、控室においてあった姿見の鏡で改めて自分の姿をもう一度見直した。もう何度目だろうか。本人としてはもう数えていない。
彼の服装は、いつもの世界忍者の格好ではなかった。世界忍者のテイストを含めながらも、どうみてもあのイメージを付け加えてある…そう、あのチャイナ服のテイストが混じっているのだ。彼にとっては悪夢以外の何物でもなかった。
本当だったら、断るのが普通であった。しかし、ここで現れたのがイベントの統括を任されていたくぅである。
「チャイナ―。メインのステージよろしく。あ、熱血系のカラオケでいいからー」
「……断る…っていうか、この衣装はなんだ!この衣装は!」
「え?この間パンツ一丁だったから、せっかく用意したのに…チャイナ忍者こと忍チャイナの」
「まて、なぜ用意されている!このデザインはなんだこのデザインは!」
「せっかくカヲリさんが用意してくれたのに…もう、仕方ないなぁ…わかった!」
「わかってくれたか!」
そういうと、くぅは閃いたかのように傍にいた松永に耳打ちするとにやりと笑ってみせた。それこそ神崎にとっては悪魔の笑みに見えたにちがいない
「わかった、じゃぁカメラまわそう!世忍どうでしょうで流す!(キリッ)」
「な、なんだってーーーーーー!でも、誰がカメラまわすんですか!」
「大丈夫、松永さんがいるから!」
「どうしてこうなったーーーーーーー!」
世忍どうでしょうとは、世界忍者国で流されているてーべー番組である。いわゆる旅番組のはずなのだが、まるでコントのような笑いをとってソコソコの視聴率をとっている番組であった。
「「おつかれさまでしたー!キンキンに客席温めておいたんで、メインこれからですががんばってください!」」
ほとんど芸人のノリ挨拶をしながら今回のライブで参加した、卯月律とメイ・リンがスタッフに挨拶をしながらステージから降りていくのが聞こえてくる。
残り時間はあまり残されていない、そんな中で神崎は一度瞑想をするように目を閉じると呼吸を整えて…
「よし、わかった!カメラよろしくお願いします!カラオケでいいならいつものレパートリーで!熱血系で〆ますからね!」
チャイナ忍者の衣装に身を包んだ神崎は、覚悟を決めた表情でステージへとあがっていく。
彼の願いはただ一つ…
「レイちゃんが世忍どうでしょうを見ませんように……」
一週間後、彼の願いは木端微塵になることは今はまだ彼は知らない…。