SIDE S
「…………呼んだ?神崎君…」
桂林怜夜が、おもわず声に出して呟くと近くで作業していた弓尾透が不思議そうにしていて
「どうかしましたか?団長。神崎くんだったら、人狼の面子に連れて行かれたじゃないですか。眠らされて…しかも簀巻にされて」
「あ、そうですよね…聞こえるはずないですよね…。いや、いつもの『どうしてこうなったー!』ってのが聞こえたような気がするんですよ。気の所為よね、気の所為…かなぁ…」
此処は世界忍者国特設会場。ここでは、世界忍者たちに忍者刀を配布するためにやはりイベントが開催されていた。ここで人狼傭兵と違うのは、お祭りというよりは研修会みたいなものになっている点であろう。
話にでていた神崎は本当ならこちらのサイドで忍者刀を配布する予定だったのだが、輸送用ヘリに乗ろうとした瞬間に話しかけていたくぅの手の内にあった注射器によって眠らされ人狼サイドのヘリに運ばれていった。
その一部始終を後ろから並んでヘリに乗り込もうとしていた怜夜は『なんかどっかの飛行機嫌いの軍曹さんみたい…止めようかなぁ…まぁ、面白そうだし…ま、いっか。いいですよね』と判断して今に至る。ちなみに、その彼は現在忍チャイナの格好でライブ中なのだが、彼女たちがそれを知るのはもっと後のお話。
「しかし…今回の忍者刀の配布って、研修会も兼ねてるから助かりますね。最近、『新しい世界忍法ができたのでみてください!』って投書が目安箱に多くてどうしようかなと思ってたんですよ」
世界忍法…それは、世界忍者が使う忍法である。通常の忍法もあるのだが世界忍者が使うので世界忍法と名付けられている。世界忍法の特徴は、古来より世界忍者に伝わる世界忍法に自分でアレンジを加えることができるという点である。なので、世界忍法とつけられる忍法の数はかなり多い。
基礎となる古来よりの世界忍法は、表の体術52系・裏の忍術48系そして、古来より文章化されていない口伝と言われる秘伝8系の計108なのだが、それにアレンジを加えた個人忍法が存在するのだ。
新しい世界忍法と認定されるには、世界忍者のハードルは高く設定されている。
・世界忍者として有益なもの
・忍法による資源消費が節約できるものが望ましい
・世界忍者国の信念に背かないもの
...etc
「まぁ、今回の忍者刀の配布である程度減るとは思うんですけどねー。ほら、あそこで練習してるのを新規登録しようとしてた人もいると思うんですよー」
そう言って怜夜が広場の方をみると、愛する旦那であるロイ・ケイリンが新しい忍者刀をもった世界忍者たちに使用方法の伝授を行っていた。背後には大きな壁が用意されているので、『釣り刀の法』を教えようとしているのであろう。
「この忍法で大事なのは紐でござる。紐の長さを間違えると足場として使っても引き上げられなくなるでござるから。ちなみに、拙者はこの忍法を使ってハニーの元に毎日通っているでござるよ」
「「はーーーい(くすくす)」」
そんな説明を聞いた瞬間の怜夜の動きはそれは早かった。弾丸を超えるスピードでロイの後ろへと回るといつの間にか持っていたハリセンがロイの頭を全力でひっぱたく!
「だれがハニーですか!だれが!」
その時、誰もが認める夫婦漫才(ただし、奥さんは否定)を始める二人の様子を遠くのフェンスから面白がって見る人物がいた。
「おー始まった始まった。やっぱりあの二人はこうじゃないとねー」
フェンスに寄りかかるように眺めているのは、本来ならば執務室で決裁を行っているはずの藩王結城由羅その人であった。キャッキャと喜びながら遠くの様子を眺めている由羅にある人物が気づくと由羅に声をかけてきた。
「藩王さま…たしか、決裁中じゃなかったんですか?あの部屋中にある書類の…」
「あぁ、徒理流さんか。あれ…あれは終わらせてきたよ?」
「…へ?終わらせてきたって…あの量をですか!?」
配布された忍者刀を腰に差した徒理流が声をあげて驚くのも無理はなかった。国内護民官用の決裁書を持っていく時にチラッと眺めただけでも普通だったら一日かかる量である。そんな量をあれから数時間で終わるとは到底信じられなかった。
「うん、だって〜ボケもツッコミもオモチャもいないんだもの。一人じゃやってられないから、ちょっと集中してこなしてきた」
「す、すごいですね…(ボケもツッコミもオモチャも…団長のことなんだろうなぁ…)」
「まぁ、集中すれば直ぐにできる量だったしね。ただし、5分集中したら1時間くらい集中できないんだけどねー」
「へぇ…(まるでどっかのヒーローみたいだなぁ…)あ、そうそう聞きたかったことあるんですけど」
そう言いながら徒理流が忍者刀を持ち出すと、柄の部分を見せるようにして
「ここの柄の所、なんか仕掛けしてないですか?説明書には書いてなかったんですけど、なんか仕掛けしてあるのが見てとれるんですが…」
「お、さすが徒理流さん。いいところに目をつけたねぅ。これは裏技ってほどじゃないけど、説明書にはワザと書いてないんだよね。極限状態でわかるみたいな仕掛けにしてるのよ」
そういいながら由羅が徒理流の持っていた忍者刀を持つと、柄の部分をカチャカチャと弄りだすと柄の部分が外れて中の物が由羅の手に握られる。それを見た徒理流は『あっ!』と【驚きの】声をあげた。
「これこれ、全員のにこれを入れてあるのよね。ちなみに祈願はもちろん生きて帰ってくること」
由羅の手に握られていたのは小さなお守りであった。このお守りが全ての忍者刀の柄の中にあると徒理流に説明すると、さらにお守りの中を開けて小さな粒のようなものを見せてみる。
「中に入っているのは乾燥させたベマーラの種。苦いけど栄養があるのよね。まぁ、非常食かわりかな…。世界忍者も人狼傭兵もみんな欠けることなく生き残って欲しいのよ。たとえ【世界のおわり】が近づいているとしても…」
そう説明する由羅の顔は国を背負う藩王ではなく、一人の女の顔だったと後に徒理流は語っている。
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なお、忍者刀には番号を振っているのは先に説明したが、この番号の一ケタ台は世界忍者国に関わっているACEへの友誼の印として藩王自らの手によって譲渡されている。装備に関しては此処の自由なので、あくまで名誉的扱いなものも存在する。
シリアルナンバー:保有者
0000:御神体への奉納
0001:結城由羅
0002:くろじゃー
0003:佐々木哲哉
0004:大神重信
0005:ロイ・ケイリン
0006:桂林怜夜
0007:エミリオ・スターチス
0008:須田直樹
0009:優羽玄乃丈
0010:玖珂光太郎
以下略