ここは世界忍者国の燃料工場敷地内。
蝉の声がまだ聞こえる残暑の中、屈強な男たちがテントで大休憩をしていると
帽子を被った一人の女性がちょっと大きめのジャグを持って現れた。
現在、燃料工場では移築の為の解体作業に入っている。
これは燃料を少しでも増産するための効率化の一環として行われる、【理解・解体・再構築】の三段階の2段階目に当たる。
女性の姿に気がついた新人の屈強な男が、女性に声をかける。
「ようよう姉ちゃん、ここは解体中で立ち入り禁止だぜ?もし、誰かに会いに来たんだったら俺が相手に…」
下世話な事を言おうとした時に、女性は男の顔を見あげてニッコリと笑って空いていた片手で男の手を握る。
「お、話がわかるねえちゃ…っ!!ぐはっ!」
男の視界はいつのまにか女性の顔から地面へと変わっていた。これを第三者からみれば、男の身体が一回転して地面に伏せられることがわかるであろう。
周りでみていた仲間がおぉ〜という声でヤンヤヤンヤと囃したてる。
「な、何しやがる!このアマ!」
真っ赤な顔で怒り狂う男を女性はチラッと見て片手で抑えつけてると、ジョグを置いて帽子をとった。
「余の顔、見忘れたか!…なんちってなんちって♪」
「げげっ…その顔は…藩王さま…っ!」
男の顔がサッと青くなっていくのが、周りで煽っている仲間からもわかった。しかし、それすらも楽しんでいるようだった。
「仕事に熱心になるのはいいけど、女の子を口説く時はもう少し紳士的になったほうがいいかな」
ニカっといい笑顔で、抑えつけるのをほどくと男が立つの手伝って再び帽子をかぶると、周りで働いてる男たちに声をかける
「はーい、みんなお疲れ様!栄養満点のベマーラジュース(スポーツドリンク風)差し入れにもってきたよー!」
おぉ〜という声とともに休憩中の男たちが藩王のもとへと集まってくる。由羅は配置されていたテーブルの上にジャグを置くと紙コップを用意して集まった男たちに配っていった。
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男たちが汗ばんだ作業着を脱いで半裸状態でジュースを飲んでいるのを、眼福とばかりに由羅が見ていると作業小屋から中年の男が紙の束をもって由羅の傍へとやってきた。
「どうも、藩王さま。いつも差し入れありがとうございます。新しい作業員が失礼なことをして申し訳ありませんでした。しかし、お見事な”駆瑠流(くるる)”でしたね」
そういいながら、頭をさげる中年の男。彼の名前は本城といい、DC建設の部長で今回の燃料工場の解体を指揮していた。彼が話していた駆瑠流とは、忍法の体術一つであり関節を決めて投げ飛ばす忍法である。
「いやいや、こういう作業してるんだからこういうこともあるって。私的には楽しいからいいけどね。あの人には気にしないでって言っておいて」
視線をたくましい男たちへと流しつつ、本城の話を聞いていると左手を求めるように伸ばして
「この間はこの間で、ケンカの仲裁に”蹴露呂”(けろろ)で軽く双方とも吹っ飛ばしていたじゃないですか。あぁ…えっと、これが解体の時に判った各部品の磨耗率と交換時の効率のリストになります。現在、机上ではありますが、かなりの能率UPが見込めますね」
本城が紙の束を由羅へと渡すと、簡単に自分の感想を口にした。この男は、人狼領地出身で燃料工場の設計にも携わった家系の出だ。それがさらに世界忍者国の良質な金属を得ることでよい部品が効率化できることを口にしていた。
「ふむ…なるほど、じゃぁとりあえずこの資料は貰っていくね。差し入れも丁度無くなったみたいだし、また覗きくるね。」
チラッと資料を流し目すれば立ちあがり、もう一度汗を吹く屈強な男たちを眺めてニヤニヤすると本城に軽く手を振って解体現場を後にするのだった…。
ちなみに、わざわざ屈強な男たちが見れるのを選んで視察を行ってるという噂ではあるが…信じるかどうかは聞き手次第と言われている。