「今日皆に集まってもらったのは他でもない、前に話していた農業改革について方針が決まったので皆に更に意見をもらうためだ」
カヲリにお使いを出してもらって数日後、藩国の重鎮だけでなく農業関係者の代表も呼んで大々的な会議を行った。
「なるほど…それで陛下はこれからの農業について、どういう方針でいくのでしょうか?」
手を軽くあげて松葉が発言すると、由羅は頷きながら紙の資料を参加者に分けていく。
「それにともない、今回はとある筋から専門家を呼んだ。ということで…専門家さん、いらっしゃーい♪」
ワザとらしい仕草で由羅が扉を挿すと、みんなの視線が扉へと注がれて大きく開かれる。
「ひかぇい、ひかえおろう。この御方をどなたと心得る。怖れ多くもNACのリーダー、アンズ・ユーキ様であるぞ。頭が高いひかえおろ〜(棒読み)」
「かっかっか〜 v(^▽^)v て、何その気が抜けた紹介は!」
腰に差していたハリセンを、右手にいた四方の後頭部にキレイにスパーン決めると唖然とする参加者の視線に気づく。
「あ、みなさんお久しぶりです〜!トウモロコシ畑の様子見に来ましたー」
アンズ・ユーキ嬢。元世界忍者国の国民であり、今は涼州にて悪童元帥の元で活動している。農業を営む者からみれば、NACのリーダーとしての高名の方が大きいであろう。彼女の活躍によって、NWの農家は何度救われたか。
ちなみに、先程叩かれたのは羅幻王国の四方無畏氏。今回は、アンズ嬢のお守ならびに、羅幻の商人として食料の買い付けも行いにきたらしい。この二人と優羽カヲリを含めた三人がsilver vineを運営している。
「まぁ、ネタはこの辺にして…とりあえず、現在の農業についての資料をみせてもらいました。国家機密レベルの情報をオイラみたいな部外者にありがとうございます」
「何を言ってるねぅ。アンズちゃんは部外者なんかじゃなく身内ねぅよ。何かあったら頼ってくれていいんだからね」
礼をいうアンズに由羅は当たり前のように答えた。<世界忍者国の基本は友誼である>それは絶対なものであり、たとえ藩国を離れたとしても其れを気にするような国民はいないのが世界忍者国である。その証に、どこよりも先駆けてNACへの全面支援を声明としてだしていた。
「藩王さま、ありがとうございます(礼)では、さっそくですが資料を眺めた私見を述べさせていただきます。現状におきまして世界忍者国では開拓して、農地に転向させる計画を立てていますが余り得策とはいえません。これは星見的観点もあるのでしょうが、NACとしてはまだまだ現状の農地に伸び代があるのを感じるからです」
ざわ・・・ざわざわ・・・
その話をきいていた農業関係者がいっせいざわついた。なにせ、現状の農法で作って最大限な収穫を得ていると思っていたのだから動揺するのは仕方ない話であった。
「えぇ…説明しますと現状で足りないものは、良質な肥料と思われます。これは今まで肥料として使っていた屑野菜や作りすぎて処分していた物を代用燃料に回してしまったことが原因と思われます」
アンズの説明にさらに会場がざわついた。いかんせん政府の信用に関わる問題である、これは一歩間違えば政府不信の原因になってしまう。
「ぇ〜おちついてください。これに関しては肥料を出せば直ぐに土地はよみがえりますし、農地として向いていない土地も農地として使えることができます。それに肥料に関しては、先程藩王さまにお願いをして必要な量を藩国より出していただける事を了承していただきました」
アンズの言葉に、農業関係者からは安堵のため息が聞こえてくる。なにせ、世界忍者国は裕福とは言えない。その上で肥料を自分たちで負担するのは流石に勘弁してほしいからであろう。
「ふむ、みんなの負担はできるだけ減らして肥料の生物資源は藩国から出すことにするので安心してほしいねぅ。それと配布する肥料の有効的な使い方に関して、NACの技術を教えてもらう講習会を定期的に行おうとおもう。参加は自由ではあるが、私としては是非参加してこれからの収穫UPを目指してほしい」
「では、配布された資料に目を通してください。説明をすると、配布予定の肥料の使い方と…こちらは希望者のみになりますが、新しい農法『輪作式農法』の説明書になります。これは、現在の農地をより効率的にする農法ですが、一つの種類に対する生産量は若干下がります。なので、現在の農法で成功している方には不要と思われます。主に荒地を新しく肥料によって農地へと転換する方や、余り農業がうまくいっていない方向けになりますのでご了承ください。」
輪作−農業の手法の1つで、同じ土地に別の性質のいくつかの種類の農作物を何年かに1回のサイクルで作っていく方法である
栽培する作物を周期的に変えることで土壌の栄養バランスが取れ、収穫量・品質が向上する。これにより、連作での病原体・害虫などによる収穫量・品質の低下の問題を防ぐことが出来る農法である。
・窒素固定能力のある作物(ラッカセイ、ダイズなどマメ科作物)→吸肥力の強い作物(キャベツ、ホウレンソウなど)
・浅根野菜(キュウリ、メロンなど)→深根野菜(ニンジン、ゴボウなど)
・単子葉野菜(トウモロコシ、ネギなど)→双子葉野菜(スイカ、トマトなど)
(参考:ウィキペディア)
「えー、お手元の資料をみればおわかりですが。今回の農法に関して肝となる物に【トウモロコシ】を推したいと思ってます。これは世界忍者国においてベマーラとトウモロコシは藩国設立からの農作物での二枚看板であったのを考慮したものですし。なによりもトウモロコシは輪作におきまして、栽培しやすく輪作に使いやすいのが理由です」
カブ→オオムギ→クローバー→コムギ
トウモロコシ→ササゲ→エンバク→ワタ
トウモロコシ→コムギ→クローバー
タバコ→コムギ→クローバー
トウモロコシ→ダイズ
トウモロコシ→ワタ
(参考:ウィキペディア)
「それに伴い、トウモロコシの他にも甘藷(サツマイモ)や馬鈴薯(ジャガイモ)なんかも埋めたいと思う。これらは北国のはずれの方でもできる作物だし何よりも単品でもおいしいからね」
アンズの説明に由羅が追加の作物について付け加えると、幾つかの質問に答えると会議は終了に向かった。
ちなみに、この後何度かの勉強会を経て本格的な栽培が始まった。今回の農法が目に見えた成果をあげだすと、国民からは感謝の声が上がっていた。後世にはアンズのことを『玉蜀黍の学士』と呼んで敬ったと記述されるレベルであった。
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「いやー、これはまた見事なトウモロコシ畑だねぇ〜」
数ヵ月後、新しく荒れ地を耕作された畑には【一面の】トウモロコシ畑が広がっていた。
「とりあえず、最初にトウモロコシを植えてその後に色んなものを輪作していくそうですよ。ここだけでなく北国エリアでは【広い】空き地に馬鈴薯や甘藷が栽培されはじめています。あと、定期的なNAC主催の勉強会では回を追うごとに参加者が増えているそうです」
視察にきた由羅と怜夜が【一面】に広がる【広い】【トウモロコシ】畑を眺めながら話をしていると、由羅は嬉しそうにしながら手元にあった一つを手に取って眺めた。
「うむ、大きい感じでおいしそうねう。幾つか貰ってみんなで茹でていただこうか。もちろん、ちゃんと払ってね。せっかく【平和の国】にまで発展させたんだから、むやみやたらに火種をまく事もないでしょ」
「わかってますー。そんなことして恨みなんて買いたくないですよ〜。」
怜夜の答えに満足しながら、次の視察へと向かうのだった。