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「さて、どうしたもんだろ〜っと」
どっかの兎みたいなアクセントで由羅はつぶやくと幾つかの項目を指でなぞっていた。
彼女が見ていたのは、新しく開拓する予定の農地計画書であった。そこには、開拓次第に栽培されるリストが並べられていた。
「う〜ん…なんか違うんだよねぇ…こう、ただ農地を広げるってさー」
農地を増やせば収穫物も増える。単純な理論ではあるが、この理論は強い。しかし、それを行うということは森を伐採して平地を増やす必要があるのだ。
しかし森を減らすということは、色んな意味で危険だ。それは藩王として、いろんな情報からわかっている。しかし食料は増やさなければ国民が飢えるだろうし、代用燃料という技術がある以上食料は多く確保するべきであるのは自明の理であった。
「最小限の開拓で最大限の食料を得る…そんな方法はないかなぁ…」
それに、農地エリアを広くしたとしても管理する人手が少なければ上手くいく道理がない
現在は、大人が少なく労働人口自体がそもそも少ない。最近になり難民に対する帰属化のお願いを政策を出してみたばかりであるが、急激な増加を期待するには酷と言うものだろう。何せ、エコな石鹸と洗剤セットという新聞勧誘みたいな手である…。まぁ、これは久堂摂政が企画したネタであるので過大な期待はしない方がいいだろう。
ペンをくるくると適当に回しながらリストを眺めていると、そっと視界の端にお茶とお茶菓子が出される。
「あ、あの…そんなに根を詰めると身体に悪いと思います…」
ふと、視界をあげるとそこには白衣を着たカヲリがお盆を抱えるようにしながら見つめていた。
「ん…ありがと…いい匂い、これはうちのお茶と…」
お茶と一緒に出されたワッフルを持つと軽く眺めて一口食べて。
「ぁ、美味しい…これ。もしかしてカヲリさんの手作り?」
「ぇっと…silver vineでアンズちゃんが作ってたので、教えてもらったんです…。美味しいなら、よかった」
カヲリが嬉しそうな顔をすると同時に、ワッフルを口にしながら由羅は急にガタッと立ち上がると詰まりそうになった喉をお茶で流し込んで…
「うわっぐぐ…。ん…ん…ごっくん。そ、SOREDA!」
何かしら思いついたのか、先程とは違って目を輝かせつつもワッフルに注目して
「カヲリさん!ちょっとお使いを出してほしい所があるんだけど!」
「…ぇっ?」
「工場長〜忍者刀の見本できたんだって?」
藩王である結城由羅が中央整備工場(通称:開発局)に久しぶりに足を運んだのは、工場長である可銀より忍者刀の試作品が完成したと連絡があったからだ。
軽く開発室の扉をノックして了解を得るとガチャリと扉を開け、目の前に台座に二振りの刀が置かれているのを見て由羅は目を輝かせた。
「おぉ〜こ、これが忍者刀かぁ〜。かっこいいねぅね」
まるで子供のようにはしゃぎながらも、まずは観察からなのか周りをぐるぐる回るようにして刀を見て違和感に気づいた。
「ねぇ、可銀さん。なんで違う種類があるの?これ、忍者刀だよね?」
由羅がたずねるのも無理はなかった。一振りの刀の方は、まさしく由緒正しい忍者刀なのだがもう一振りは日本刀すらない白兵で使われるカトラスの形状をしていたからだ。
「ぁ、藩王さま。一応試作品なんですけどね、できあがりましたよ…あぁ、これですか?もう少し待ってください…」
「??」
そう言いながら可銀は持っていたストップウォッチの画面をチラッと眺めつつ、アバウトな説明をすると残り10秒などと呟きながらカトラス形状の刀を眺めていた。
「3…2…1、パチン!」
可銀がカウントダウンと共に指を鳴らしたかと思えば、カトラス形状の刀は一瞬にして隣に並んでいたものと同じ忍者刀へと変化したのだ。今は同じ形の忍者刀が並んでいる。
「っ、えぇぇぇぇ!」
由羅が【驚きの】声をあげるのも無理はなかった。さっきまでカトラスだったのが忍者刀に変わったら十中八九驚くものである。
由羅の驚きぶりに満足そうにしながら、可銀は元から置いてあった忍者刀の一振りを手にとって何度か軽く動かしてみる。すると、今度は忍者刀がカトラス形状へと変化する。
「な、なんでぇ?」
余りの展開に目が点になりつつも、由羅も忍者刀を手にとって何度か振ってみる。しかし、可銀がやった時のようにカトラス状に変化することはなかった。
あまりに不思議そうな顔をする由羅の表情に満足しながら、可銀は机にあったスイッチを押して遮光カーテンを展開させていく。部屋も暗くなって、これから何かを見せるようだ。すると、元から用意されてスクリーンに動画が映され始めていく。
『やぁ皆さん、私の研究室へようこそ』
どう見ても舞台の書割でできた教授室をバックに、可銀が蜘蛛の夜空さんを頭に乗せて現れる。どうみてもメガッサの屈辱(世界忍者てーべーで放映中)のパロディであった。
そして、動画が進むと世界忍者と忍者刀の歴史について講義が始まっていく。もちろん、パロディらしく教養というよりはネタであるのだが、途中より<変化の術と忍者刀>の項になると、由羅は想像を超えた理論に開いた口が塞がらなかった。
『変化の術と世界忍者が組み合わさると忍者刀にもそれは影響し、変化の術が忍者刀に伝播する。すると、忍者刀は形を変えて世界忍者の手に現れる』
『姿が変わった忍者刀だが、何かしらの能力が加わる訳ではない。ただ見てくれが変わるだけで寸法や切れ味は元の忍者刀のままである』
『変化させるには世界忍者であると共に条件が存在する、それは一定のコマンド(刀振り)を行うことで忍者刀を変化させられるのである』
数分後、動画が全部終わってカーテンが開けられると急な明るさに目を細めつつ由羅は可銀の方を見て問いただした。ちなみにEDにはスタッフとしてなかだいの名前も確認している。
「えっと…この動画、全部マジ?特に変化の術と忍者刀の関連性って?」
「マジじゃなかったら動画なんて手が込んでるの作りませんって。とりあえず、判りやすい説明ではあったと思いますけど?」
「まぁ、そうなんだけど…信じるのも難しいと思うねぅ」
苦笑しつつも、動画で説明されたコマンドの通りに忍者刀を振ってみると確かに由羅の手にはカトラス状になった忍者刀が現れた。
「しかし、あれよね。これって、忍者刀の変化バージョンだけにするには勿体ないデザインねぅ。いっそのこと、新たに作って人狼傭兵に渡す忍者刀ってこのバージョンにしちゃおうかな?」
「あぁ、それもいいですね。忍者刀と二種類作ってどっちか選ばせてあげてもいいかもしれませんね」
由羅は決断すると、今回の試作品としての忍者刀とニンジャカトラスの大量発注を藩王として命じた。これからの戦いにおいて、必要と思われるからだった。
「よし、とりあえず改造各自自由にして私のはキラキラでイルミネーションぽく光る仕様にしよう。うん、そうすれば私が目立つ!」
「そ、それは凄いですね…」
「おー絶景かな絶景かな♪随分と立派にできあがったものだねぇ〜」
ここは、湾から少し離れた高台にある公園。そこから見えるのは新しく移築された燃料工場であった。
藩王の宣言通りに、新しく建てられた燃料工場は従来の工場に比べて23%もの効率アップが果たされた。
その報告書を見た藩王は大満足しながら関係者各位に金一封を与えたのだが、藩財政を司る金庫番の鐘音は黙認した。何せ、関係者全員よりも23%の効率アップの方が藩国としては重要であるのが明白なのである。
「ゴホン…えっと取りあえず、お手元の資料をご覧ください」
冒頭のご機嫌のセリフをいいながら藩王である由羅が新燃料工場に目を輝かせていると、妖精の父親アイドレスを着た摂政の尋軌が資料に目を通して説明をしていく。
「えー今回の移築ならびに部品交換により、かなりの効率アップができたことは資料をみればおわかりだと思うので省きます。今回は、さらに工場の周りの説明になりますので、周りをごらんください」
久堂の言葉に、集められた政府関係者は資料から新しい工場へと視線を変えていく。
「まず、新しい燃料工場なのですが此方は代用燃料の変換装置も隣接させました。それに伴い二つあった施設が繋がって省スペースを可能に。さらに空いたスペースを港として運行し、燃料を運ぶためのタンカーや漁船なども停泊できるように作りかえました」
その説明をした直後に、ボーっと汽笛の音が響くとタイミングの良さにクスクスと笑ってしまう者も出てくる始末。
「コホン…で、その港を守る為に更に色々と手を加えました。安全面に関しては妥協することなく予算を組みました。こちらに関してはご了承ください。まず、湾内に高波や津波・高潮がこないように湾の出口において、緊急時には消波できるようにシステムを導入してあります。最悪の場合は湾内を閉鎖して燃料が漏れることも防ぐのにも使いたいと思ってます」
そう言いながら、資料の使用想像図をご覧くださいというと更に説明を続けていく。
そんな真面目な説明会を既に準備の段階で聞いていて、こそこそと抜けだした由羅は公園の柵に寄りかかるようにして海風を浴びながら「この燃料工場がこれからも人々の為に動きますように…」と呟くのだった。
トウモロコシ畑を作るにあたり、アンズ嬢の助力も得て生物資源での肥料も作ることができた。
そうなってくると肥料を混ぜてトウモロコシを作るだけなのだが、その前に行うことがあった。
五穀豊穣を祈るための地鎮祭を行うのだ。
イロモノの世界忍者国と言えど、神への感謝は行うべきものだし何よりも食物を作るために大地を借りているという考えは世界忍者国の民に根付いていた。
「さてっと…そろそろ儀式を始めますか。」
主な面子は、儀式ということで珍しく全員が礼服を着用している。その中でも神崎は神殿においての神官長ということで滅多に着ない神官としての装束を身にまとっている。チャイナやバニ―でも問題ないと周りは言っていただが、神崎自身の固い意志で神官の格好になっている。
そんな中で桂林怜夜は妙な胸騒ぎを覚えていた。地鎮祭をおこなうに際し、周りは幕で覆われていた。此処が外なのに四方に幕である。しかし、そんな彼女の胸騒ぎを他所に儀式は始まってしまった。
「では、これより五穀豊穣を祈願のための地鎮祭を行います。みなさんお静かに…では、神々にお祈りを…」
静かな時間が流れ、藩王以下参加していた全員がお祈りを行う。そんな中で神崎が祝詞を読みながら宝剣として作られた忍者刀を奉納していく。
「無事に神々への奉納は終わりました、皆さんお疲れ様です。それでは、地鎮祭第二部を行いたいと思います」
「………はい?」
神官である神崎の言葉に、おもわず怜夜は声にだしてしまった。自分の知っているスケジュールとはちがうのである。自分の知っているスケジュールでは、このあとに宴会に普通に入る予定なのだ。
「では、今回の五穀豊穣祈願の為に用意したロイ像111体のお披露目になります!」
いつの間にか司会として久堂がマイクを持つと、周りの幕が一斉に落されて景色が明らかになる。
「え、えぇぇぇぇぇぇぇ!!」
その光景を見た怜夜は絶叫した。何せ今まで見た事のない新しいロイ像があちこちに置かれているのだから。
しかも、儀式をおこなった正面には、まるでどこかの菓子会社のおじさんスタイル(#カ●ルおじさん)のロイ像が建っているのだから。
「今回の第五次ロイ像生産計画により、通算が777体になりました!このロイ像が世界忍者国を平和な国への道しるべとなってくれるでしょう!」
呆然とする怜夜のを尻目に、久堂が言ったようにこれから一面にトウモロコシ畑が広がっていくのである。
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